裁判例
Precedent
契約締結時における本部の説明義務 ~フランチャイズ事業の法適合性~
(平成8年2月19日大阪地裁判決)
<事案の概要>
コンビニチェーンのフランチャイズ契約を締結した加盟店Xが、本部に対し、①初期投資費用への返済分も含めてもなお利益が出ると説明、勧誘したこと、②Xが準備した店舗では立地条件上、他にテナントは入らないと説明を受けたこと等を根拠に、本部の虚偽の説明によりフランチャイズ契約を締結して事業を運営した結果、損害が生じたとして損害賠償請求をした。
<判決の概要>
フランチャイザーは、フランチャイズ契約を締結する段階において、フランチャイジーになろうとする者に対し、当該立地条件における出店の可能性や売上予測等に関する情報、加盟に際し徴収する加盟金の額及び契約期間中にフランチャイザーに対して支払う金銭の額、加盟者に対する商品の販売条件、経営指導を行う事項等について、できる限り客観的かつ正確な情報を提供する信義則上の義務を負っているというべきである。中小小売商業振興法11条が、フランチャイズ等への加盟に際し、フランチャイザーは、加盟しようとする者に対し、①加盟に際し徴収する加盟金、保証金その他の金銭に関する事項、②加盟社に対する商品の販売条件に関する事項、③経営の指導に課する事項、④使用させる商標、商号その他の表示に関する事項、⑤契約の期間並びに契約の更新及び解除に関する事項等について記載した書面を交付し、その記載事項について説明をしなければならない旨規定し、社団法人日本フランチャイズチェーン協会倫理綱領が同様に正確な情報の提供を義務付けているのも、右の趣旨において理解すべきである。
もっとも、中小小売商業振興法は、行政上の取締法規又は営業準則としての性質を有するに過ぎないのであるから、フランチャイザーがこれらの定めに違反したか否かを形式的にみることによって私法上の違法性の有無を決すべきでないことはいうまでもない。フランチャイズ契約においては、本件契約を含め、フランチャイザーとフランチャイジーは、基本的には独立した事業体であり、フランチャイジーは自己の責任により経営を行うものであって、フランチャイズ契約締結に際してフランチャイザーが提供する前記の情報についても、加盟しようとする者において検討の上で自らの判断と責任においてフランチャイズ契約を締結しているものと解するのが相当であるから、前記情報が虚偽である等、フランチャイジーになろうとする者にとってフランチャイズ契約締結に関する判断を誤らせるおそれが大きいものである場合に限って、右信義則の義務違反となり、フランチャイザーはフランチャイジーが被った損害を賠償する責任を負うものというべきである。
解説
中小小売商業振興法11条は、フランチャイズ契約の締結時において、本部が加盟店になろうとする者に対して一定の事項の情報提供を義務付けています。本裁判例は、本部がこれらの情報提供を行わなかった場合に、加盟店に対する説明義務違反になるかどうかについて言及したものです。本裁判例は、中小小売商業振興法が行政上の取締法規であることを理由に、同法に違反したことから直ちに説明義務違反になるわけではなく、加盟店がフランチャイズ契約を締結するにあたって、判断を誤らせる程の重大な情報の開示がない場合や誤った情報を提供した場合に説明義務違反になるとしています。
本事案では、本部が加盟店に対して、フランチャイズ契約締結に際して判断を誤らせる恐れの大きい情報を提供したとはいえず、加盟店側の主張を認めませんでした。