病院・診療所の破産の特殊性

今回は、病院・診療所の破産手続をする場合の特殊性についてみていくことにします。
病院とは、医師又は歯科医師が、公衆又は特定多数人のため医業又は歯科医業を行なう場所で、20人以上の患者を入院させるための施設を有するものをいいます。
診療所とは、19人以下の患者を入院させるための施設を有するものや入院施設がないものをいいます。
1 誰が破産をするのか?
病院・診療所が破産するというのは、その開設者が破産をしなければならないとされています。個人が開設した病院の場合は、開設者本人が破産手続をする必要があります。また、医療法人が開設した病院の場合は、医療法人が破産手続をすることになります。
このように病院名で破産をするわけではありませんが、破産の申立をする場合は、わかりやすさのために病院名も併記することが望ましいこともあるでしょう。
2 破産手続開始前に注意しなければならないこと
1 診療を継続している場合
(1)各関係機関等との連携
病院・診療所の破産申立の場合に第一に注意しなければならないのは、破産手続そのものというよりは、入院患者や通院患者の生命、身体の保護です。
病院経営者や申立代理人が、裁判所、行政機関及び地域の医師会等と協議しながら、患者に対する影響がないようにする必要があります。
具体的に検討すべき点としては、入院患者、通院患者、転院・転医の状況、受け入れ先が確保されているか、転院に要する期間や費用、転院・転移までの間診療を継続するだけの医療体制が整っているかどうかです。
入院患者がいながら、医療体制に不備がある場合や患者の生命身体に危険が生じる可能性のある場合には、都道府県の環境保健部等の行政機関、所轄の保健所及び地域の医師会と協議し、患者に対する影響がないようにする必要があります。入院患者が存在しない場合であっても、継続的な治療をする通院患者が存在する場合には、緊急治療の必要性の有無など、患者の状況について調査し、行政機関等の協力を求める必要があります。
(2)診療を継続するべきかどうか
既に多数の空きベッドがある場合、診療報酬債権が譲渡されている場合、滞納処分や差押がされているような場合は、適切な医療を行なうことが困難です。このような場合に診療を継続すると、医療体制に不備等から患者に被害をもたらすおそれがあります。また、破産した際に、債権者に配当する資産(「破産財団」といいます。)の減少につながるおそれがあります。
そのため、無理に診療を継続するのではなく、入通院患者の転院、転医をさせて事業を廃止することが望ましいです。やむを得ず事業を継続する場合でも、患者及び治療内容を特定した上で、事業継続の期間を短期間に限定するべきでしょう。
2 診療を休止又は廃止している場合
破産の前に、事業を休止又は廃止したときは、開設者は10日以内に、都道府県知事に届出を行なうこととされています。
また、エックス線装置等を設置している場合には、保健所長にエックス線装置等廃止届出を行なう必要があります。
3 破産手続申立後の補助者の確保
病院・診療所が破産申立をした後の、破産財産の管理、換価、処分等をする管財業務は、裁判所から選任された弁護士である管財人だけでは到底行なうことはできません。そのため、申立の前に、管財業務の補助者として少なくとも看護師と事務員代表各1名は確保する必要があるでしょう。
入院患者がいる場合や通院患者の転医が済んでいない場合は、全ての職員が解雇されていることは通常ないため、破産手続後に破産管財人によって、職員の解雇が行なわれることになります。全員の職員を即時解雇してしまうと、転院等までの医療を行なうことができなくなります。そのため、治療そのものを担当する医療従事者、病院施設の保守管理者、診療報酬の計算、雇用保険や給与の計算をする事務職員を確保する必要があります。
4 廃止届と休止届
病院施設の買受人に対する病院開設許可や病院数増加許可がされる前に、破産をする病院の廃止届を提出すると、その病院のある地域の基準病床数に空枠が生じ、新たな病院開設許可や病床数増加許可がなされてしまう可能性があります。そうすると、買受人に対する病院開設許可や病床数増加許可がされず、医療施設としての譲渡ができなくなるおそれがあります。休止届の場合には、基準病床数に空枠が生じることにはなりません。そのため、病院廃止届ではなく、休止届を提出するなどの工夫をする必要があります。
5 診療録等の保存
カルテ及びその他診療に関する諸記録については、保存期間が定められています。カルテは、医師法で、診療終了の日から5年間保存しなければならないとされています。
病院日誌、各科診療日誌、処方せん、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、患者数を明らかにする帳簿、入院診療計画書は医療法で2年間保存しなければならないとされています。
このように、病院・診療所は、破産をしたとしても、診療録等の保存をしなければなりません。具体的に、どのように保存されているかというと、病院施設の買受人が施設をそのまま病院施設として利用する場合には、その買受人が診療録等を引き継ぐことになることが多いようです。買受人がいないような場合には、破産財団の中から費用を負担して診療録等を保管することになるでしょう。
今回は、病院・診療所が破産する場合の特殊性について説明しました。病院・診療所が破産する場合に、問題になる点はケースバイケースで、早めに対処をすることで問題点を潰すことができます。病院・診療所の破産を検討されている方はお早目にご相談されることをおすすめします。
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