エステサロンを経営する会社の破産の特殊性

1 エステ会社の破産の特殊性

エステサロンを経営する会社(以下、「エステ会社」といいます。)の顧客は、継続してサービスを受ける契約をしていることが多く、その場合サービスを受けるための権利(チケットや会員資格)を現金やクレジットカードを利用して前払いで支払っていることが多いです。
そのため、エステ会社の破産の場合には、従業員の未払賃金、エステ設備等の処理や買掛先業者との調整だけでなく、エステ会社が事業を停止することでサービスを受けられなくなってしまった顧客への対応を適切に行わなければならないという点に特殊性があります。

以下では、破産手続を行なった場合の顧客がエステ会社からサービスを受ける権利の取り扱い、エステ会社が破産手続の申立前にしなければならないことと、顧客がサービスを受ける権利を保護する手段を説明していくことにします。

2 顧客がエステ会社からサービスを受ける権利の取り扱い

破産手続をすると、顧客がエステ会社からサービスを受ける権利はどのように取り扱われるでしょうか。
破産手続は、基本的にすべての債権者を平等に取り扱い、破産する会社の財産に余剰があれば、それを金銭に換えて配当をする手続きです。そのため、法律上優先的に取り扱われる税金や従業員の賃金等を除く債権は、あくまでも他の債権と同様に取り扱われることになります。
顧客がエステ会社からサービスを受ける権利は、法律上優先的にとり扱われるとされていないので、あくまでも一般的な債権と同様に取り扱われることになります。
そのため、破産をする会社に資産に余剰がある場合のみ、優先的に取り扱われる債権に対する弁済や配当の後に、債権額に応じて配当されることになります。会社に十分な余剰があるままで破産をするケースは稀ですので、実際にお金が戻ってくるのはレアケースといえるでしょう。
平成29年4月5日に破産手続き開始決定を受けた「グロワール・ブリエ東京」の場合を紹介します。同社は、脱毛サロンを全国に約100店舗展開し、顧客(会員数)は約9万人にも及んでいました。顧客は、十数万円から数十万円に及ぶ料金を月ごとに分割して前もって支払う契約を結んでいたようですが、破産管財人のホームページによると、解約を希望してもすでに支払った施術料金の返金(配当)は困難な見通しとされています。

3 破産手続の申立前にすべきこと

上記のようにエステ会社の破産手続の特徴は、既にサービスを受ける権利について前払いをしている顧客に適切に対応しなければならないところにあります。 破産申立ての直前まで営業を続けているケースでは、顧客が数百名から数万人の規模になることもまれではありません。
顧客のほとんどは個人の消費者であり、決して安くはないサービスを受ける権利が無効になってしまうということで感情的になり、適切な情報提供をしないと顧客への対応が難しくなることも多いでしょう。破産手続をするための申立費用もそれに応じて高額になる傾向がありますので、十分に申立をするための資金を確保する必要も出てきます。
特に,破産申立ての方針が決定した後に支払をした顧客は、お金を騙し取られたという被害感情をより強く持つことになります。場合によっては、てるみくらぶの経営者ように詐欺罪で逮捕され、刑事罰を受けるおそれもあります。
そのため、破産申立ての方針を決定した後は、顧客との新たな契約や契約の更新をストップすることを検討しなければなりません。
一方で、新規の契約や契約の更新をやめることで、破産申立ての方針が現場のエステティシャンや顧客に伝わる可能性があります。その場合、エステ会社が破産を行なうという情報が外部に漏れてしまうことで、破産の準備がスムーズに行なえなくなってしまうことも考慮に入れなければなりません。
そのため、エステ会社の破産手続を行なう場合には、新たな契約を行なうこと等によるトラブルの拡大の予防と、破産手続を円滑に行なうために密行性を保つことをどのように調整するかという判断を慎重に行う必要があります。

4 顧客がサービスを受ける権利を保護する手段

(1)前受け金の保全措置を行なっている場合

エステ会社が、サービスを受ける権利の対価として顧客から前もって預かっている費用のことを「前受金」といいます。仮に、サービスの提供期間内でエステ会社が破産してしまっても、上記第2、1のとおり顧客のサービスの継続や前払いした料金の返還については保証されていません。
ただし、未利用サービス分の料金を利用者に返還できる「前受金保全措置」をとっている場合には、これを利用して、金融機関から顧客に対して前受金の全部または一部の返還を受けることが可能ですので、前受金保全措置をとっている場合には、顧客に対して手続が円滑に進むように情報提供をする必要があるでしょう。

(2)クレジットカード払いの場合

クレジットカードを利用してエステ利用料金を支払う場合、以前は、消費者(顧客)が役務提供事業者であるエステ会社との契約を解除できても、信販会社からの支払請求を拒むことができませんでした。しかし、現在では法改正により、役務提供事業者であるエステ会社との間で生じている事由(倒産等により役務の提供が受けられないなど)をもって、信販会社からの請求も拒否(支払拒絶の対抗措置が取れる)できるようになっています。
簡単にいうと、以前はクレジットカードでチケット代などを決済していた場合に、顧客は、信販会社からの引き落としを拒むことができなかったのですが、現在では、エステ会社が破産手続などによりサービス提供を受けられない場合には、引き落としをストップしてもらえます。そのため、クレジットカード払いの顧客に対しては、引き落としのストップを信販会社に連絡するように告知して、被害の拡大を防ぐように、顧客に情報提供をする必要があります。

5 一般社団法人日本エステティック経営者会(JEM)における一定の優遇措置

エステ会社のJEMの会員の場合には、救済措置として、協会に加盟しているほかの会社が一定の優遇措置(支払い済みの場合は、70%程度の支払など)を行なってくれるケースもあるようです。
そのため、エステ会社がJEMの会員の場合には、JEMに優遇措置を採ってもらうよう要請をする必要があるでしょう。

今回は、エステ会社が破産をする場合の特殊性について説明をしました。エステ会社が破産手続を行なう場合には、上記の点以外にも問題になる点があり、早期勝つ適切に対処をすることで、円滑に破産手続を行なうことができます。エステサロンを経営する会社の破産を検討されている方はお早目に弁護士にご相談されることをおすすめします。