破産の申立先(管轄)

破産の申立先(管轄)

1 どの裁判所に申立をすればよいのか

破産の申立をする場合にどの裁判所に申立をすればよいのかが問題になることがあります。たとえば、北海道に住居があるが、東京都23区にお住まいでの方は単身赴任している場合は、札幌と東京のどちらの裁判所で破産を申し立てるべきなのでしょうか。
また、会社の本店は東京にあるが、会社の代表者が静岡県静岡市にお住まいの場合は、東京地の裁判所に申立をすることができるのでしょうか。これを管轄の問題といいます。
破産の申立をすると破産をした人(法人の場合には代表者の方)は、通常、裁判所に一度は出頭することになります。申立をできる裁判所を複数選択できる場合には、事前によく検討する必要があります。

2 通常の場合

①個人が破産する場合

個人が破産をする場合は、原則として破産をする人の住所を管轄する地方裁判所(又はその支部)です。住民票上の住所と現住所が異なる場合には、現住所を管轄する地方裁判所(又はその支部)です。

(例)
<東京23区にお住まいの方>
東京地方裁判所に申立をします。
<北海道札幌市に住民票上の住所があるが、東京都23区にお住まいの方>
札幌地方裁判所ではなく、東京地方裁判所に申立をすることになります。

個人の破産の場合
・住民票上の住所を管轄する地方裁判所
・住民票上の住所と現住所が異なる場合は、現住所を管轄する地方裁判所

②法人が破産する場合

法人が破産する場合は、原則として主たる営業所を管轄する地方裁判所に申立をします。通常は登記簿上の本店所在地です。登記簿上の本店所在地と実質上の本店所在地が一致していない場合には、実質上の本店所在地が基準となります。

(例)
<会社の本店が東京都23区にある場合>
東京地方裁判所に申立をします。
<会社の本店が東京にあるが、実質上の本店所在地が名古屋市にある場合 >
東京地方裁判所ではなく、名古屋地方裁判所に申立をすることになります。

法人の破産の場合
・会社の登記簿上の本店所在地を管轄する地方裁判所
・登記簿上の本店所在地と実質上の本店所在地が異なる場合は、実質上の本店所在地を管轄する地方裁判所

3 その他の管轄

①大規模管轄

債権者が500人を超える場合には、高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも、申立を行なうことができます。
債権者が1000人を超える場合には、東京地方裁判所または大阪地方裁判所にも、破産の申立を行うこともできます。

(例)
<債権者が500人を超え、債務者の住所が栃木県宇都宮市の場合>
宇都宮地方裁判所だけでなく、東京地方裁判所にも申立をすることができます。
<債権者が1000人を超え、債務者の住所が青森県青森市の場合>
青森地方裁判所だけでなく、東京地方裁判所にも申立をすることができます。

②法人と法人の代表者の破産

多くの中小企業では代表者が会社の債務につき連帯保証をしているので、会社と一緒に代表者も破産をするのが通常です。
会社と代表者が一緒に破産申立をする場合、会社の本店所在地か代表者の住所地のいずれでも破産の申立ができます。

その他にも破産法には管轄に関する例外規定が設けられています。
どこの裁判所で破産を申し立てとしたら良いかお悩みの方は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。

4 東京地方裁判所に申立をする場合

東京地方裁判所では平成22年2月1日から、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県に在住する方の破産の申立を受けていました。
しかし、平成27年5月1日以降に申立てがあった破産事件については、周辺3県(神奈川県、埼玉県、千葉県)に住民票上の住所がある債務者からの申立を含め、東京地方裁判所で手続を進めるかどうか、より丁寧に審査をするように東京地方裁判所での運用が変更されました(即日面接通信vol.18)。
この運用の変更に伴い、東京地方裁判所では、平成27年5月1日から自己破産申立書式が変更され、今までにはなかった以下の管轄に関するチェック欄が設けられています。

①個人が破産する場合

□住民票上の住所が東京都にある。
□大規模事件管轄または関連管轄がある。
□経済生活の本拠が東京都にある。
□東京地方裁判所に管轄を認めるべきその他の事情がある。

□「経済生活の本拠が東京都にある。」とは
「経済生活の本拠が東京都にある。」に該当するか否かは、現実に住んでいる場所が東京都かどうか、勤務地が東京都にあるかどうか、債権者の多数が東京都にあるかどうかといった諸要素を裁判官が総合考慮して判断します。
単身赴任などをしていて、現実に住んでいる場所が東京都であり、勤務先も東京都であり、債権者の半数が東京都に所在していれば、「経済生活の本拠が東京都にある。」と判断される可能性は高いです。
他方で、債権者の半数以上が東京都内に所在しているだけでは、申立をした事件を他の裁判所に移されるか、申立を取下げしなくてはならないようです。

□「東京地方裁判所に管轄を認めるべきその他の事情がある。」とは
東京都内に破産者の財産があり、事件の性質から、東京地方裁判所の専門性を活用して手続を進めたほうが良い場合が「東京地方裁判所に管轄を認めるべきその他の事情がある。」に該当するとされています。
たとえば、破産者が個人事業主で多数の仕掛品が東京都内にある場合がこれに該当するといえるでしょう。

②法人が破産する場合

□商業登記の全部事項証明書上の本店が東京都にある。
□大規模事件管轄又は関連事件管轄がある。
□営業活動の拠点(実質的な本店)が東京都にある。
□東京地方裁判所に管轄を認めるべきその他の事情がある。

□「営業活動の拠点(実質的な本店)が東京都にある。」とは
営業活動の拠点が東京都内にあるかどうかは、東京都内に営業所や事業者があるか、主要な取引先が東京都内にあるか、債権者の半数以上が東京都内に所在しているかといった要素を考慮して最終的には裁判官が判断します。
具体的にどの裁判所に申立をすべきかについては、具体的事案によって異なりますので、弁護士に相談をすることをおすすめします。
□「東京地方裁判所に管轄を認めるべきその他の事情がある。」とは
個人破産事件の場合と同様です。