旅行会社の破産の特殊性

1 旅行会社の破産の特殊性とは

2017年3月に破産手続の開始をした旅行業者であるてるみくらぶの破産手続の件もありましたので、今回は、旅行会社の破産手続について簡単に説明していくことにします。 旅行業者の中には、海外旅行及び国内旅行を同時並行的に多数企画し、テレビ・新聞・雑誌・インターネット等を利用した様々なメディアを用いて参加者を多数募集しているところがあります。このような場合、旅行申込者が全国に存在し、その人数が数千人に上る可能性があります。このように、旅行会社の破産の特殊性とは、個人の債権者が多数存在する可能性があることにあるといえます。

2 債権者を保護する制度

旅行業者における取引では、旅行に出発する前に、旅行者が旅行代金を支払うのが通常です。そのため、旅行業者の倒産で旅行に行けなくなった旅行者を保護するために、営業保証金制度弁済業務保証金制度という2つの制度があります。

(1) 営業金保証制度

旅行業協会の正会員以外の旅行業者と取引をした旅行債権者の債権を保証する制度です。旅行業者が法務局に供託した営業保証金から一定の範囲で旅行債権者の旅行代金の保証をすることになります。営業保証金の金額は、旅行業者の取引の額に応じて決められています。旅行者からの弁済請求額の合計金額が営業保証金を超える場合には、営業保証金額の範囲内で各旅行者の請求額に応じて按分弁済されます。

(2) 弁済業務保証制度

旅行業協会(一般社団法人日本旅行業協会(JATA)、社団法人全国旅行業協会(ANTA))の正会員である旅行業者(「保証社員」といいます。)と取引をした旅行債権者の債権を保証する制度です。旅行業協会が法務局に供託した弁済業務保証金から一定の範囲で旅行代金の保証をすることになります。
上記1の営業金保証制度の保証金の5分の1の額を弁済業務保証金分担金として旅行業協会に納付し、旅行業協会がこの分担金を法務局に供託し、保証社員間相互で営業保証金の額を連帯保証し、営業保証金の負担を軽減するための制度です。
てるみくらぶは、JATAの会員で、弁済業務保証制度を利用できるようですが、この制度でカバーできる弁済額は一般客に対する債務が約99億円以上であるのに対し、1億2000万円に留まるようです。
なお、てるみくらぶの破産を踏まえて、観光庁では2017年4月、「経営ガバナンスワーキンググループ」を設置し、「経営ガバナンスの強化」と「弁済制度のあり方見直し」の2点を軸に議論を進めました。現在、再発防止策の制度設計と実施に向けた調整を行なっています。公表されたスケジュールによると、広告募集や旅行者募集のあり方に関しては、募集広告での前受け金の使途明示などが2017年12月に開始される予定のようです。
また、2019年4月には、今回のてるみくらぶのような旅行者への多額の負債を抱えて破産をするような事案を防止するため、第1種旅行会社を対象に、観光庁への決算申告書や納税証明書、純資産と取引額の提出、第三者機関への通報窓口の設置などが行なわれる予定のようです。

3 破産手続開始前に注意しなければならないこと

(1)保全管理命令、開始決定時期の検討

保全管理人とは、裁判所から保全管理命令というものが出されたときに選ばれる人で、一般的には弁護士です。この保全管理人がする職務の内容としては、破産者の財産の管理、処分から、企業の経営や管理などを行うものです。
旅行債権者の人数が非常に多い場合は、破産手続開始前にも大きな混乱が予想されることから、保全管理人を選任し、登録行政庁や旅行業協会の保証金の還付(弁済)の進行などを確認し、どのような債権届出をしてもらうか、債権調査に要する期間、債権者集会への出席見込みなどを検討し、破産手続開始決定をすることが妥当なこともあるでしょう。

(2)補助者の確保

旅行業者は、物を販売する物販業界の取引と異なる面が多いです。旅行業界独自の慣習もあるようです。そのため、申立前の事前準備に経営者だけでなく旅行取引に精通した従業員(経理部門、営業分門)を確保する必要があるでしょう。また、申立後でも、破産する旅行業者の管財業務(旅行業者の財産の管理、換価、処分等)をスムーズに行なうためには、旅行取引に精通した従業員を補助者として確保することが重要であるといわれています。

(3)旅行債権者の記載漏れがないか

破産の申立時には、債権者の名前、住所、債権額等を記載した債権者一覧表を裁判所に提出します。旅行債権者が多い場合には、この債権者一覧表に漏れが生じることも起こりえます。
旅行出発日が破産手続の申立後であり、旅行ができなくなった債権者の場合は、旅行債権者として債権者一覧表に記載漏れは生じにくいとは思います。すでに旅行に出発している場合には、本来ならば旅行代金を支払っていれば、現地での負担がないようなケースで、宿泊先等への費用の支払が一部未払いであったために、現地で支払わなければならないことがあるようです。このような二重払いがあった場合には、その二重払い分についても、破産債権となりますので、このような債権の計上漏れがないかに気をつける必要があります。

今回は、旅行会社が破産する場合の特殊性について説明しました。旅行会社が破産する場合には、上記の点以外にも問題になる点は多く、早めに対処をすることで問題点を潰すことができます。旅行会社の破産を検討されている方はお早目にご相談されることをおすすめします。