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裁判例: 外貌醜状

交通事故
外貌醜状
12級
逸失利益
過失割合

ロードバイクの特殊性を過失割合に反映しなかった事例【後遺障害12級14号】

醜状障害の裁判例(後遺障害12級14号)

ロードバイクの特殊性を過失割合に反映しなかった事例(東京地判平成28年7月8日)

事案の概要

X(24歳男性)は、ロードバイクで車道を直進していたところ、道路外に出ようと左折する被告の車に、巻き込まれるように衝突した。Xは転倒し、下顎部挫創等の傷害を負い、下顎部の醜状痕は後遺障害等級12級14号と認定された。

<争点>
① 過失割合
② 外貌醜状の逸失利益

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 6万7220円 5万4610円
通院交通費 2万3020円 2万3020円
休業損害 3万9545円 3万9545円
逸失利益 1278万4098円 100万円
傷害慰謝料 90万円 70万円
後遺障害慰謝料 300万円 290万円
過失相殺 0% 5%
既払金 ▲250万6285円 ▲250万6285円
弁護士費用 160万円 20万円
合計 1590万7598円 217万5031円

判断のポイント

① 過失割合

<ロードバイクの特徴と過失割合>
近年、ロードバイクは競技のみならず、日常の足として使われています。ヘルメットをかぶっていたり、目立つ色のウェアを着用したりしていれば、通常の自転車と異なり、高速度で走行しているものと一見してわかりますが、交通事故となると、そのようなケースはあまり多くありません。

過失割合は、道路形状、交通規制(信号機や一時停止の標識)、双方の車両の種類(車、二輪車、自転車)、双方の進路、速度などの事情によって定められます。ロードバイクの特殊性は、双方の車両の種類、速度に大きく関わります。

<X及びYの主張>
Xは、「Yの車は、左折の際合図を出していなかった。」と主張しました。
これに対し、Yは、「Xの自転車はBianchi社製のスポーツタイプであり、本件事故当時、高速度で、なおかつ、不適切なブレーキ操作、前方不注視及び無灯火の過失があった。」と主張しました。

<裁判所の判断>
Xのロードバイクが、時速20kmの速度で走行し、かつ、ブレーキ操作を適切に行っていれば、Xは転倒せずに、Yの車の手前で停止できたと認められる。ところが、Xは、急ブレーキによって転倒しているのであるから、Xには、道路の状況に応じた速度で走行する義務又はブレーキを確実に操作する義務(道路交通法70条)に違反した過失があったと認められる。一方で、Yがいつその合図を出したかは不明である。

このように本件事故の発生についてはXにも過失があるが、本件事故の主たる原因は、Yが左後方の安全を十分確認することなく左折したことにあり、Xの過失は、Yの過失と比べると軽微であるから、Xの過失は5%とするのが相当である。

② 外貌醜状の逸失利益

<外貌醜状のポイント> 外貌醜状は、対面する人に着目されるなどして、コミュニケーションに支障をきたすことあり得るものの、労働能力を直接的に減少させる要因にはならないと考えられています。そのため、外貌醜状の後遺障害が残ってしまった場合には、逸失利益を主張するよりも、後遺障害慰謝料の増額を図ることを念頭に置く例が多いです。

<Xの主張>
Xは、舞台俳優になることを目指し、アルバイト等で生活費を稼ぎながら歌や踊りの練習をしたり舞台に出演したりする活動をしており、外貌醜状による労働能力の喪失は認められるべきとして、逸失利益1278万4098円を主張しました。

<裁判所の判断>
Xは、本件事故後も舞台活動を続けているものの、本件事故による下顎の挫創治癒痕を友人や知人に度々指摘され、舞台に立っているときも下顎の挫創治癒痕が気になって演技に集中できなくなることがあることなどを総合すれば、下顎の挫創治癒痕はXの労働能力に影響を及ぼすおそれがある。もっとも、下顎の挫創治癒痕は化粧をすれば目立たなくなること、下顎の挫創治癒痕を理由に役を外されたりしたことはなく、本件事故前と同様に舞台活動を続けられていることに照らすと、下顎の挫創治癒痕が原告の労働能力に及ぼす影響は限定的といわざるを得ない。以上の事情を勘案すると、逸失利益は100万円と認めるのが相当である。

コメント

外貌醜状の点は、他の参考判例解説に譲ることにしますが、本件で、舞台俳優を目指している方であっても、労働能力の喪失は限定的にしか認められないとした点は特徴的といえます。

ロードバイクは、自動二輪車に匹敵する高速度で走行することが可能であり、近年ではその利便性から、都市部で多く見かけます。ロードバイクの事故に関するご依頼を多くいただくようになりましたが、自動二輪車と同等に取り扱われる例は少ないです。本件のように、ロードバイクの特殊性よりも、道路形状、交通規制、双方の車両の種類、双方の進路、速度などの基本的な事情が重視されることが多いです。

ご自身がロードバイクに乗っていた場合、相手方がロードバイクに乗っていた場合のいずれであっても、当事務所にお気軽にご相談下さい。

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逸失利益

1歳の負った傷【後遺障害12級相当】

醜状障害の裁判例(後遺障害12級相当)

~1歳の負った傷~(大阪地判平成21年1月30日)

事案の概要

当時1歳の女児であったXが乗車していたX車が、エンジン不調のため非常駐車帯に停車し、Xの父の兄の車両を待っていたところ、飲酒運転かつ居眠り運転のY車が時速約100キロメートルでXの父の兄の車両に追突し、そのはずみで同車両がX車に玉突き衝突した。
Xは、この衝撃により、左顔面裂傷、左眼瞼裂傷(その後の兎眼)、左網膜震盪の傷害を負った。幼児期の深い傷であったため、Xは成長に応じて皮膚移植等の手術を繰り返す必要があり、症状固定したのは事故から8年後であるXが9歳の時だった。
結果的にXには、顔面瘢痕拘縮、睡眠時左瞼障害、左鎖骨部瘢痕の醜状痕等が残り、自賠責保険においては、顔面部醜状痕につき、後遺障害12級が認定された。

<争点>
・Xの醜状が、後遺障害等級何級相当か
・Xの醜状から、逸失利益が発生するか
・Yの過失態様が悪質である点は、賠償金額に影響するか

<主張及び認定>

主張 認定
通院交通費、宿泊費 33万1000円 33万1000円
入通院慰謝料 412万5000円 222万0000円
後遺障害慰謝料 1500万0000円 784万0000円
逸失利益 2000万0000円 574万2340円

判断のポイント

・Xの醜状は、後遺障害等級何級相当か
Xの顔面部には複数の瘢痕や線状痕の傷痕を残っており、Xはこれらを連続したものとして合算して計上すると、後遺障害等級7級に該当ないし相当するものであると主張しました。
対するYは、確かに線状痕は複数あるが、連続していないのは明らかであるから、これらを合算することは不適当であると主張。各々の大きさからすると、後遺障害等級は12級となることがやむをえないものと反論しました。
これらの主張は、自賠責保険における後遺障害等級の認定基準が、線状痕や瘢痕の大きさで明確な区切りを設けているために行われているものです。
すなわち、(当時の)後遺障害等級においては、
女性の外貌に著しい醜状が認められる場合→7級
女性の外貌に(単なる)醜状が認められる場合→12級
という規定がなされていました。

そして、醜状が著しいか否かは、線状痕の長さが5センチメートルに達しているか等の至極機械的な計測結果によって割り振られているのです。
この点、裁判所は、本件Xの瘢痕は「長さ3センチメートル以上で10円銅貨大以上の大きさの目立つものであるとは認められる」とし、12級に該当することを確認しつつ「長さ5センチメートル以上であるとか、鶏卵大の大きさに達しているとは認められない」「線状痕が連続しているとか、瘢痕が近接しているものであるとは認められず、単純に長さあるいは面積を合算して後遺障害の程度を評価することが相当であるとは認められない」と、Xの合算による主張を排斥しました。
しかし他方で「後遺障害慰謝料の基準として、長さ3センチメートルであれば後遺障害等級12級で280万円が相当となるものが、長さ5センチメートルに達したと単に突然後遺障害等級7級で1030万円が相当となるというのは極端」と判断し、慰謝料金額は「必ずしも長さに比例して算定されるべきものではない」と示しました。
そもそも、後遺障害等級というものは、当該後遺障害が残存してしまったことに対する慰謝料及び逸失利益の算定をする便宜上、定められているものです。
しかし、この等級は元来は労災保険給付額の決定のためのものであり、必ずしも現実の損害額を反映しているとはいえない場合もあります。
本判決では、複数個所に認められる瘢痕の大きさと線状痕の長さからすると、後遺障害慰謝料は12級相当の基準額から2倍の増額をすることが相当と判断しました。

・Xの醜状から、逸失利益が発生するか
醜状障害の場合に常に問題となるのが、逸失利益の算定です。
通常の後遺障害は、疼痛や可動域制限など、現実に労務に服することが困難となることが容易に観念できます。
しかし、醜状障害の場合には、「そのような傷痕が仕事に影響を与えるか?」という疑問が出されてしまうのです。
そのため、醜状障害の場合には、後遺障害等級と労働能力喪失率が整合しない例が多数あります。
本件の場合は、これに加えて、症状固定時点において就労可能年齢までまだ10年以上あるため、将来の労働能力喪失の蓋然性が認められる必要があります。
この点、Yからは、美容整形の技術が飛躍的に進んでいることから、将来の就労制限の蓋然性は大きいとはいえないと主張されました。
裁判所は、上記Yの主張に対しては、「形成外科に関する医療の進歩があるとしても、現時点でこの醜状を治癒させるに足りる技術が確立しているものとは認められ」ないと、排斥しました。
その上で、Xの醜状痕からすると「対人接客等の見地において原告の就業機会が一定限度成約されることは否定できないと考えられるし、また、自ら醜状を意識することによる労働効率の低下も考えられるところである」として、後遺障害等級12級相当の労働能力喪失率14パーセントと認めました。
そもそも、今後形成外科や美容整形技術が発達したとしても、それは症状固定後の事情であり、行うか否かは被害者の自由です。また、仮にこれを行えば逸失利益がなくなるとした場合、その施術費用は加害者に負担させなければ不合理です。
したがって、「今後医学が進歩するから大丈夫のはず」などという主張は、基本的には受け入れられず、本件の裁判所の判断は妥当であると思われます。

・Yの過失態様が悪質である点は、賠償金額に影響するか
本件のYは、飲酒かつ居眠り運転をし、その際の時速は約100キロメートルにも及んでいます。Yの事故後の言語態度はしどろもどろの状況で、酒臭が強く、顔色は赤く、呼気1リットル中0.5ミリグラムものアルコールが検出されました。
このように、あまりに悪質な過失態様である点で、Xから慰謝料額の増額事由として主張されました。
裁判所は、上記事実が認定されることを前提として、さらにXが負った傷害及び障害の程度からすると、通常よりも4割増しの算出をすべきと判断しました。
これにより、入通院慰謝料及び後遺障害慰謝料の双方が、4割増額をされました。
ひき逃げ等の悪質な態様がある場合に、慰謝料額を増額する例はありますが、2割程度のものが多い印象です。
本件では、あまりに悪質な運転態様である点と、そのような加害者の行為で被害者に極めて重大な傷害結果が発生した点をあわせて、4割という高い基準の増額が得られたものと思われます。

コメント

醜状障害についての後遺障害等級は平成23年に改正され、現在は男女間で共通の基準が設けられています。
本件事故当時は、男性の場合と女性で、同程度の醜状痕が残存した場合、女性の方が重い障害であると規定されていました。
これは、女性の方が外貌に気を使うという性差を意識してつけられた差異でしたが、差別的な取り扱いであるという判決が出されたため、改正されたものです。
本件事故は平成8年に発生し、平成21年に判決が出ているため、改正前の基準で後遺障害等級が考えられています。
そのため、判決文の中にも、Xが女性である点を考慮する部分が随所に見受けられます。
したがって、改正後の基準でも同様の判断がなされるかは少々見通すのが難しい部分もあります。
もっとも、裁判所は基本的に本裁判例のように、具体的な醜状の態様や、被害者の置かれた状況から慰謝料や逸失利益額を算定することになります。
相手の保険会社が「逸失利益は認められない」と回答してきたとしても、裁判所の判断次第では数百万円が認められることも往々にしてあります。
このように、醜状障害は、一筋縄ではいかない論点がいくつもあるので、示談してしまう前に是非弁護士にご相談ください。

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俳優の卵がキズモノに【後遺障害12級14号】

外貌醜状障害についての裁判例(後遺障害12級14号(当時))

~俳優の卵がキズモノに~(東京地判平成26年1月14日)

事案の概要

X(当時27歳・男性)は、普通自動二輪車を運転し直進進行していたところ、対向車線からでUターンをしようとしたY乗車の普通自動二輪車に衝突される。
Xは、頭部打撲傷、顔面挫創、左肘打撲擦過創等の傷害を負い通院治療をしたが、左眉部に6センチメートルの線状痕、左下顎部に3.3平方センチメートルの瘢痕、左下顎下部には5センチメートルの線状痕が残存し、当時の後遺障害等級12級14号に該当すると認定された。
これらの慰謝料等をYに対して損害賠償請求した事案である。

<争点>
①逸失利益が認められるか?
②過失割合は認められるか?

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 647万6798円 646万8738円
通院交通費 2万3920円 2万2830円
文書料等 1万9379円 1万9379円
休業損害 334万3726円 264万4892円
逸失利益 3115万0810円 0円
傷害慰謝料 200万0000円 154万0000円
後遺障害慰謝料 800万0000円 700万0000円
既払金 ▲793万2857円 ▲950万7867円
弁護士費用 430万0000円 82万0000円
合計 4738万1776円 900万7972円

判断のポイント

①逸失利益について

本裁判例に限らず、傷痕や瘢痕が残ってしまうという外貌醜状障害の場合に大きな問題となるのが逸失利益を認めさせることができるか?という点です。
逸失利益とは、後遺障害が残ったことによって労働能力が喪失し、その結果として将来的に収入が減少する場合に、補償として認められます。つまり、例え後遺障害が残ったとしても、労働能力が減少しない限り、逸失利益は生じないことになります。通常、可動域制限や神経症状などが残存している場合には、これまでと同じように動けないのですから、逸失利益が生じることは暗黙の了解のような場合が多いのですが、外貌醜状や痛み等を伴わない変形障害は、従前通り稼動することができるため、逸失利益が認められない傾向にあります。
本件では、原告であるXが事故当時俳優研修所に通っている俳優の卵だったため、原告は残存した外貌醜状によって表情作りが困難になったり、オファーの来る役柄にも制限が出てしまい、労働能力の35%を喪失した、と主張しました。
これに対し、裁判所は、Xの本件事故以前の経歴や本件事故後の出演作品等を一つ一つ認定した上で、原告の傷痕は「通常は労働能力を喪失させるようなものではなく、原告が俳優の仕事に従事していることを考慮しても、舞台俳優としての活動には何ら支障になるものではないことが認められる」「原告が将来、俳優として成功するかどうかは様々な要因によって左右されるものであることを併せ考慮すると、左眉部の線状痕等が残存したことによって原告の俳優としての将来得べかりし収入が減少したと認めるには足りない」と判断し、逸失利益を認めませんでした。
もっとも、舞台俳優としては目立たなくとも、映像分野において俳優として活動する際に何らかの支障になる可能性があることは認め、後遺障害の慰謝料増額事由を認めました。
後遺障害12級の慰謝料相場が290万円であることを考えると、本件では410万円ほど増額していることになります。

②過失割合について

「双方動いていたら、10対0にはならない」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。これは保険会社がよく使ってくるフレーズなのですが、本件で裁判所は双方進行中の事故でも過失相殺を認めませんでした。
本件事故は、平日の午前中で、現場付近の交通量が多い時間帯に起こっていますが、そのような場所でUターンをしようとする場合、慎重な運転が求められていたにもかかわらず、YはX車両にぶつかる直前までX車両に気づかないまま衝突しており、Yの前方不注視の違反が重大だと判断されたためです。
Xは、Y車両を避けようとブレーキをかけ、ハンドルを切るなどの措置をとっていることからすれば、本件事故は専らYの過失によって起きたと判断されました。

コメント

外貌醜状障害が残存した場合には、本件のように逸失利益が認められるかが大きな争点となることが多くなります。外貌醜状以外の他の症状も残存している場合には、それらと合わせて逸失利益の検討ができますが、外貌醜状態のみの場合には、実際にどの部位にどのような痕が残っており、仕事内容を勘案してどのような影響が生じるかという具体的な主張と立証が必要となります。
本件では、眉部分の傷痕は一部が眉と重なっており、映像でアップにすれば気づくことはありますが、写真や舞台では気づかない程度のものであり、左下顎部の瘢痕や線状痕もあまり目立たないものでした。そのため、具体的に仕事に支障が生じていることが認められず、逸失利益は否定されました。
もしも、どこから見ても分かってしまうような大きな痕であったり、傷痕によって仕事のオファーが減る、実際に傷痕を理由として降板させられるような事態が生じていれば、一定程度の逸失利益が認められた可能性は十分にあります。
もっとも、本件のように逸失利益が認められない場合にも、慰謝料が一定程度増額される傾向にあります。この増額を勝ち取るためにも、被害者がその傷痕によってどのような弊害を被っているかをきちんと主張する必要があるのです。
※なお、本件事故当時は後遺障害等級上男性の醜状と女性の醜状は別々の等級とされていましたが、平成22年6月10日以後に発生した事故については、男女同等級となっています。

また、本件では過失相殺を否定しています。
Xはまっすぐ走っていただけなので、当たり前と思うかもしれませんが、具体的にどういう形で衝突したのかをきちんと立証できなければ、不本意にも過失割合が認められてしまうこともあります。
本件のように、加害者がどのような対応の運転行為をしてそれはいかに重大な不注意なのか、被害者はどのような対応の運転行為をしてそれはいかに評価すべきなのか、という点をしっかりとカバーすることが大切になります。

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外貌醜状
胸腹部
脊柱・体幹
8級
過失割合

産道狭窄と逸失利益【後遺障害併合8級】

骨盤骨折等の裁判例(後遺障害併合8級)

(大阪地判平成17年1月31日)

事案の概要

車道を自転車走行中だったX(19歳・女性)は、すぐ横を通り過ぎようとした路線バスと接触し転倒。骨盤骨折等の傷害を負ったため、同バスの運行会社であるYらに対して、損害賠償の請求に及んだ。

<争点>
①Xに過失相殺されるだけの不注意があるか
②Xの後遺障害は何級か?
ⅰ)労働能力喪失率は何%か?
ⅱ)後遺障害慰謝料はいくらか?

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 209万8640円 199万9820円
付添看護費 109万8500円 109万5500円
交通費 38万7000円 4万1650円
消耗品費 36万2320円 36万2320円
休業損害 1003万8525円 497万9529円
逸失利益 5720万2846円 2586万2503円
将来分消耗品費 279万4298円 266万1229円
入通院慰謝料 280万0000円 280万0000円
後遺障害慰謝料 2000万0000円 1200万0000円
入院雑費 21万7100円 21万7100円
物損 1万0000円 1万0000円
損害のてん補 ▲936万5035円 ▲936万5035円
弁護士費用 900万0000円 400万0000円

判断のポイント

①Xに過失相殺されるだけの不注意があるか

①Xに過失相殺されるだけの不注意があるか  本件事故は、車道を走行する自転車と路線バスが接触して、自転車が転倒したものです。この点、Y側からは「Xがふらついて勝手にぶつかってきた」「路側帯ではなく車道を走っているのが悪い」等の主張がされ、過失相殺がなされるか争われました。
裁判所は、刑事事件の記録上、Yの運転手が事故の原因を「自転車を追い抜いて行くことが分かっていながら、…対向車の動きにばかり気がいってしまい、相手の自転車に全然注意しなかったこと、それに、相手は私の車が追い越すときは、当然除けてくれるものと思って進んでしまったこと」と供述していることから、Y側に重大な不注意があったと判断しました。他方で、Xは自転車で走行をしていただけであるため、過失相殺は認められませんでした。
自転車は、道路交通法上は軽車両として車両に含んで扱われています。そして車両は、路側帯と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならないと定められています。Y側は「路側帯を走らなければならなかった」と主張していますが、自転車が車道を走行することは法律上問題ありません。もっとも、軽車両は自動車等に比べて走行速度が遅いため、車道を走行する際には左端に寄って走行し、追いつかれた際には適切な避譲措置をとることが求められます。本件では、Xは路側帯寄りを走行していたため、特段過失相殺となるような不注意は認定されませんでした。

②Xの後遺障害は何級か?

Xは、本件事故によって身体の各部に傷害を負い、以下のような後遺障害が残存したと主張しました。

(1)人工肛門装着による身体の各所の痛み、全身の疲労感(後遺障害5級3号)
(2)骨盤骨変形(後遺障害12級5号)
(3)骨盤骨変形による通常分娩の困難性(後遺障害9級16号)
(4)外貌の醜状(後遺障害7級12号)
(5)右下肢の短縮(後遺障害13級8号)
(6)頭痛、右手痺れ感等(12級12号)

これらのうち、(1)、(2)、(5)、(6)については、裁判所はXの人工肛門による弊害や実際の就労状況等を詳細に認定した上で、それぞれ9級11号、12級5号、14級12号に該当すると認定しました。((5)については、(2)で評価されていると判断しました。)
また、(3)については、骨盤骨が変形し、それによって賛同が競作し、通常分娩が困難な状況となっていることを認定しながらも、労働能力には影響しないため逸失利益の算定には考慮しないとし、具体的に後遺障害何級に該当する、という判断はしませんでした。
(4)について、Xは人工肛門になってしまったこと及び背部や大腿部に小さな瘢痕があることを主張していましたが、人工肛門自体は外貌醜状とはいえないし、瘢痕も大きさが規定に達しないことから、後遺障害には該当しないと判断しましたが、慰謝料の算定に考慮するとしました。

以上から、裁判所はXの後遺障害を併合8級と判断し、労働能力喪失率は45%と認定しました。しかし、裁判所は「女性でありながら生涯にわたり人工肛門を装着しなければならないこと、骨盤骨の変形によって産道が狭窄し、通常分娩が困難な状況にあるといえること、腹部や大腿部などに複数の醜状痕をのこしていること」などから、後遺障害慰謝料は8級の基準額である830万円を大きく超える1200万円を認定しました。

コメント

昨今、自転車の交通ルールについて厳罰化が進められ、それに伴い自転車側に過失があるという主張は以前より強まっているように感じます。本件事故は平成9年のものなので、厳罰化傾向となる前ですが、現在の道路交通法に照らしても、Xには特に過失相殺すべき不注意は認められないでしょう。自転車は歩行者よりも高速度かつ制動困難であり、自動車に比べればはるかに脆弱なので、交通ルールをしっかり守って、万が一に備えることが重要といえます。なお、上述のとおり自転車を含む軽車両は、歩道と車道が区別してある場合には原則として車道を走行しなければなりません。しかし、歩行者の通行を著しく妨げない限り道路左側の路側帯を通行することもできますし、車道を走行することが危険である場合には歩道を走行することもできます。自動車や歩行者の妨害にならないように、臨機応変な運行が求められますが、なによりも優先すべきは、自身や他人の安全ということですね。

本事案で注目すべきところは、後遺障害の認定の仕方です。一般的には後遺障害の認定がされた場合、その認定された等級にあわせた後遺障害慰謝料と逸失利益が認められます。これらは、各等級である程度の基準化がなされています。例えば、後遺障害8級の場合には、慰謝料は830万円、逸失利益の算定の基となる労働能力喪失率は45%となります。
もっとも、残存障害によって肉体的精神的に受ける損害と、労働に関して生じる支障は必ずしもリンクしないこともあります。例えば、外貌醜状であれば、精神的には大きなダメージを受けるでしょうが、顔に傷痕が残ることは必ずしもお仕事上の支障や収入減にはつながらないでしょう。そうすると、「後遺障害が何級か?」ということと、「後遺障害慰謝料がいくらか?」及び「逸失利益はいくらになるか?」ということは、論理必然性がないことになります。
そこで本裁判例では、まずXに残存している症状をひとつひとつ認定した上で、それが労働能力に影響を与えているかを検討しています。その意味では、骨盤骨変形による通常分娩の困難性や、人工肛門装着等は、労働能力には影響しないとしています。しかし、それらの症状が残存しているのは確かであるため、これらが与える精神的損害は確かに存在するとして、後遺障害慰謝料を後遺障害8級どころか、6級をも上回る1200万円もの金額を認めています。
これは、非常に合理的な認定のされ方のように思われます。特に本件のように負傷部位が多く、様々な症状が残存しているような事案においては、それらを一律に「後遺障害」という言葉で論じていては、具体的で妥当な解決には結びつきません。重要なのは、その症状が仕事にどのような影響を与えるか?ということと、その症状が精神や肉体にどのような影響を与えているか?ということです。
これらを裁判所に適切に認めてもらうには、地道な立証作業が必要です。傷害部位や残存症状が多い場合には、是非とも弁護士にご相談ください。

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