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裁判例: 下肢

交通事故
下肢
12級

CRPSについての裁判例【後遺障害12級13号】

膝関節の神経障害 CRPSについての裁判例(後遺障害12級13号)

事案の概要

幹線道路において、X(原告:39歳男性、調理師)が運転する普通自動車二輪車と、路外から公道上に出てきたY(被告)が運転する普通乗用自動車が出会い頭に衝突した事案。
Xはこれにより、全身打撲・頚椎捻挫・右膝関節血腫・腰椎々間板ヘルニア・右膝挫傷・皮下出血・左手関節挫傷・右膝関節拘縮を負ったため、Yに対して損害賠償請求をした。
右膝等の疼痛、左上肢等のしびれにつき、自賠責保険会社から後遺障害等級14級9号に該当すると判断されていた。

<主な争点>
①公的証明がない基礎収入額
②後遺障害の程度(右膝等の疼痛について)
③過失割合

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 216万7411円 202万0301円
入院雑費 6万6000円 6万6000円
通院交通費 23万3370円 23万3370円
休業損害 812万5000円 219万9600円
入通院慰謝料 260万0000円 200万0000円
将来治療費 14万5660円 認められない
逸失利益 2746万7211円 1008万3034円
後遺障害慰謝料 830万0000円 420万0000円
過失相殺 ▲5%
損益相殺 ▲382万5124円
弁護士費用 160万0000円
合計 1753万7065円

判断のポイント

①公的証明がない基礎収入額
本件では、休業損害額を認定するにあたって、公的な証明書である源泉徴収票がありませんでした。また、休業損害証明書に記載されていたXの採用日が本件事故の3ヶ月前とされており、それ以前から働いていた旨のXの主張と異なるものであったことから、Y側から、Xの基礎収入の主張は信用できないと反論されていました。
しかし、裁判所は、Xが調理師法による調理師免許を取得していたこと、勤務先からXに対して毎月交付されていた給料支払明細書があることなどから、賃金構造基本統計調査の年齢別平均収入額も考慮したうえ、月額28万2000円の基礎収入を認めました。なお、休業損害証明書記載の採用日が本件事故の3ヶ月前であったことは、勤務先の意思に基づく作為であったというXの主張に合理性が認められ、勤務先の協力が得られなかったことにXの帰責性は認められないと判断されました。
このように、公的証明がない場合でも、さまざまな事情から基礎収入額を認定することは可能です。もっとも、この事案ではXが調理師免許を取得していた事情も考慮されており、事案によって認定の仕方は異なると思われます。基礎収入額が問題となる場合には、どのような仕事に就きどのくらいの収入を得ていたか、なるべく詳しい資料を入手することが大事になります。

② 後遺障害の程度(右膝等の疼痛について)
Xが訴えていた右膝等の疼痛について、裁判所においても、客観的かつ厳格な要件が設定されている自賠法施行令上の後遺障害であるCRPS(複合性局所疼痛症候群)は認められませんでした。
しかしながら、Xが本件事故直後から一貫して強く訴えていた症状であり、日本版CRPS判定指標は満たす旨の専門的知見があることなどを考慮すれば、「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当するとして、後遺障害等級12級13号を認めました。
そもそもCRPSとは、骨折などの外傷や神経損傷の後に疼痛が遷延する症候群のことを言います。その特徴とされる症状はきわめて多彩であるものの、他覚所見が認められにくいものであり、複数の症状全てに他覚所見を要求する自賠責保険の後遺障害等級認定をクリアするのは厳しいものとなっています。
ところが本件では、厚生労働省の研究班が作成した日本版CRPS判定指標を満たすという資料が出されており、裁判所はこれを基に後遺障害等級12級13号を認定しています。
自賠責保険の後遺障害等級認定が認められなくても、このように裁判で後遺障害が認められ慰謝料の請求が出来る場合もあります。本件では、Xが事故直後から強く症状を訴えていたという事情も考慮されており、最後まで自分の主張を貫く姿勢も大事であることが分かります。

③過失割合
本件では、Y側から、Xに30%の過失があるとの主張がされていました。
これに対し裁判所は、Yに過失があることを前提に、Xにも、交通状況に応じた速度と方法で運転しなければならない注意義務に反した過失があることは否定できないとして5%の過失相殺を認めました。
擦過痕等から、車両の徐行の有無を認定し、過失を認めたようです。

コメント

本件のように、Y側から休業損害額で反論があり、自賠責保険の等級認定が認められていないというような場合、何も準備がされていなければ、本来支払われるべき賠償額より相当低い額になるケースもあります。本件でも、示談交渉の時点での賠償額は、裁判所の認定額とは大きく異なっていたでしょう。
事案によって対応すべき点は異なり、1人で判断するのはとても困難です。また適切な対応をすることによって賠償額が大きく変わることもあります。
交通事故で困ったことがありましたら、1人で抱え込まず弁護士にご相談ください。

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交通事故
下肢
7級
併合

可動域障害についての裁判例【後遺障害7級相当】

可動域障害についての裁判例(後遺障害等級7級相当)

~足が動かない大変さ~(大阪地判平成20年10月14日)

事案の概要

X(67歳女性)が信号規制に従って交差点を自転車で進行中、Yが自動二輪車で赤信号無視してきたため、Xと衝突した。
Xは、この事故で右膝関節内粉砕骨折の傷害を負い、Yに対して損害賠償の請求をした。

<主な争点>
①症状固定時期(必要な治療はどこまでか)
②労働能力喪失率
③介護の必要性

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 581万8355円 581万8355円
通院交通費 23万5630円 16万6030円
入院雑費 24万0500円 25万3500円
装具費用 18万8206円 18万8206円
休業損害 849万3541円 859万9636円
傷害慰謝料 500万0000円 415万0000円
後遺障害慰謝料 1051万0000円 1030万0000円
逸失利益 559万7654円 449万8202円
症状固定前の付添介護費用 423万0000円 423万0000円
将来の介護費用 246万5210円 246万5210円
弁護士費用 220万0000円 200万0000円

判断のポイント

① 症状固定時期(必要な治療はどこまでか)
本件でXは、複数の病院に通院し、後遺障害診断書も複数回作成されていました。
そして、問題となったのは、後遺障害診断書が作成された後に、人工関節置換手術を受けていることです。
一般に、後遺障害診断書には「症状固定日」が記載されます。
つまり、必要な治療がすべて終わって初めて後遺障害診断書の作成がされるのです。
したがって、後遺障害診断書の「症状固定日」以後の治療や手術は、原則として事故による賠償とはいえなくなります。
しかし、本件では、作成されていた後遺障害診断書上「右ひざにつき人工関節置換などの再手術を要する可能性がある」と記載されていました。
これが大きなポイントです。
つまり、ここで作成された後遺障害診断書は、あくまで「現在の小康状態が続けば症状固定」というに留まるのです。

このようなことは、往々にしてありえます。
特に、関節部の骨折等の場合、ボルト等で固定したうえで、一見すると癒合しているように見えても、血液循環不備等の理由で、壊死してしまう場合があります。
このような場合には、「壊死しなければ、これ以上の治療はとりあえず必要ない」「仮に悪化すれば再手術やより大掛かりな手術を要することになる」という形になります。
本件でも、再手術の可能性も踏まえた、とりあえずの症状固定であると明確に記されていたのが大きかったといえます。
また、再手術の結果、Xの関節可動域が大きくなった、つまり、少しは改善したという点も、手術が必要であったという評価に資しているといえるでしょう。

このように、もしかすると今後悪化するかもしれない、その場合には治療再開や手術が必要かもしれない、という場合には、きちんとその旨を証拠化しておくことが大切になります。

②労働能力喪失率
Xは、右膝関節の用廃(8級)と、右下肢短縮障害(13級)が認められ、併合7級相当と認められました。
労災の基準では、後遺障害7級は、労働能力喪失率は56%になります。
当然、Xは56%の労働能力喪失率で逸失利益を主張しました。

しかし、裁判所は結果としては、労働能力喪失率を45%として認定しました。
45%は、後遺障害8級の喪失率です。
裁判所は、確かに後遺障害は二つ認められるが、どちらも右脚の障害であるから、右膝関節の用廃に短縮傷害を併合した等級を喪失率の基準とするのは相当ではないと判断しました。
つまり、単純にいえば、右脚が短くなった不便さは、右脚が動かなくなった不便さの中に含まれる、という考え方です。

このあたりは、被害者側としては少々異論もあり得るところです。
本件では、Xの短縮障害は1センチメートル程度であり、これが小さいと評価されたのかもしれません。
確かに、膝が動かなくなってしまったことからすれば、1センチ脚が短くなったことの影響は少ないとも考えられます。

このように、後遺障害の等級評価と、労働能力喪失率は必ずしも一致しません。
個別具体的に、どのような障害がどのように労働に影響を及ぼすかという点を、きちんと主張立証していく必要があります。

③介護の必要性
Xは、日常生活の介護が必要だとして、介護費用を請求しました。
これに対して、被告は、この原告が利用している介護というのがいわゆる「家政婦がするような仕事内容」であり、Xの怪我についての介護ではないと主張し、これらは休業損害の中で評価されるべきと主張しました。

確かに、そもそも一般的には、後遺障害8級程度の等級では、付添介護費用が十全に認められないという判断が多いように思われます。
そのうえ、本件でXが請求しているのは、食事、掃除、犬の散歩といったような、あくまで日常生活のヘルプであって、傷病の手当てではありません。

しかし、この点につき裁判所は、一般論としては、Xの請求が難しいとしながらも、本件ではXは「婚姻歴がなく子もいないから、家族がいる被害者であれば当然に受けられる日常生活上の世話も、職業付添人(家政婦)に依頼せざるを得ない状況にある」と判断しました。
その上で、そのような出費は本件事故がなければしなくてもよかったものであるから、実際に出費した分は損害として認めると認定しました。
また、将来も同様の介護が必要であることは明らかとし、少なくともXが主張している金額は損害として認めることができるとしました。

この判断は、とても具体的な事情に配慮した細やかなものといえます。
ひとことで「介護」といっても、それを必要とする人によって、内容はさまざまです。
たとえば、遷延性意識障害(植物状態)であれば、用便の世話から、洗体、床ずれ防止や場合によってはバイタルチェックまでを要するかもしれません。
他方で、下半身不随等の場合、身の回りのことはある程度自分でできるが、移動を手伝ってもらう必要があり得ます。
本件では、右膝関節の用廃という、日常所作に難を抱えたXにとって、料理屋犬の散歩等は自分でするには困難な作業となりました。
これらは、もしもXに家族がいれば、代わりに行ってくれるでしょう。その場合には、大した問題は生じません。
しかし、Xは未婚で子供もいませんでした。
その場合、自分のことは自分でやるしかありません。
やってもらうとすれば、そこには当然対価が発生してしまいます。

裁判所は、このような具体的な事情を踏まえて、そのようなサービスを受けるもやむなし、と認定しました。

このことから分かるのは、Xがどのような生活を送っており、どのような点に不便を覚えているのか、それをどのように解消する手段があるのかといった点を、きちんと整理して主張することの大切さです。

コメント

本裁判例は、いずれの争点についても杓子定規に決定せずに、具体的な事情を汲み取った判断をしました。
もちろん、争点②のように、ある程度杓子定規に考えてもらったほうが、被害者側に有利だったものもあります。
そこで、適切な解決をするには、何をどこまで主張すべきなのか、どのような落しどころがあり得るのかを、きちんと見通すことが必要になります。
交通事故賠償は、ある程度定式化が進んでいますが、全てがそれで解決するわけではありません。
適切な解決をするために、ぜひあなたの詳細で具体的な事情を弁護士にご相談ください。

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交通事故
下肢
12級
因果関係
素因減額

後遺障害が認定されても安心はできない【後遺障害12級7号】

右膝関節の機能障害の裁判例(後遺障害12級7号)

~後遺障害が認定されても安心はできない~(大阪地判平成27年11月26日)

事案の概要

52歳の男性Xの乗用車が、駐車場の出口で一時停止中、後退してきたYの乗用車に逆追突され、両膝半月板損傷の傷害を負ったため、XがYに対し、損害賠償を求めた事案。
Xの右膝について残存した症状は、膝関節機能に傷害を残したものとして、損害保険料率算出機構(損保料率機構)より後遺障害等級12級7号が認定されていた。

<主な争点>
①本件事故の態様はどのようなものだったか
②本件事故と両膝半月板損傷の因果関係、素因減額

<主張及び認定>

主張 認定
治療費(既払金) 81万0019円 81万0019円
入院雑費 1万0500円 1万0500円
通院交通費 2万3115円 2万3115円
文書料 6300円 6300円
休業損害 515万5000円 125万6191円
入通院慰謝料 130万0000円 130万0000円
逸失利益 1367万1705円 199万8862円
後遺障害慰謝料 290万0000円 84万0000円
既払金 ▲311万2099円 ▲393万7700円
弁護士費用 210万0000円 23万0000円
合計 2286万4540円 253万7287円

判断のポイント

①本件事故の態様
本件事故の態様で具体的な争いになったのは、Y車の後退速度です。
Xは、Y車の後退速度がそれなりの速度であったことを前提に、衝突された瞬間、X車がバウンドするような衝撃を受けたと主張したのに対し、裁判所は、これを認めず、Y車はゆっくりとした速度で後退してX車に衝突し、その衝撃の程度はそれほど大きくなかったものと認定しました。
X側は、X自身の本人尋問のほかに、X車の後方で待機していた車両の運転者Zの、X車が衝撃で動いた旨の陳述書も証拠として提出して、X車がバウンドするほどの衝撃であったことを主張しましたが、裁判所はそのどちらの信用性を認めませんでした。裁判所は、本件事故直後にYがXに負傷の有無を尋ねたところ、Xが大丈夫であると返答し、Xがジュースを買いに現場を離れた際に足を引きずるような様子は見られなかったこと、衝突による車の修理費用が、XYどちらもそれほどの金額にならず、運転にも支障がなかったこと、事故後に警察官が臨場したものの、実況見分も行われなかったことなどの客観的事実を根拠としてY車の後退速度を認定したのです。
第三者の供述は、特別な事情がなく、合理的な内容であれば信用性が認められるものですが、XとZは知人であり、ZにはXに有利に陳述する動機があったことがZの陳述内容の信用性判断に影響したと考えられます。また、本件では上記のような客観的な事実が認められたため、それらから認定される事実と整合しない、不合理な供述として信用性が認められなかったのではないでしょうか。

②本件事故と両膝半月板損傷の因果関係、素因減額
(1) 上記のように、裁判所は本件事故の衝撃の程度はそれほど大きなものではなかったと認定しましたが、Xの右膝の半月板損傷については、本件事故と相当因果関係があると認めました。
半月板損傷は、膝を強く打ったり、激しく動かしたりねじるなど、膝に大きな負荷がかかった場合に、膝関節の外側・内側に1個ずつある三日月型の軟部組織が傷付いて、膝に強い痛みが生じるようになるものであるため、Yは、本件事故の衝撃の程度はそれほど大きくなく、膝にかかる負荷も小さかったとして、本件事故とXの両膝半月板損傷との間には因果関係は認められないと主張しました。
裁判所も、本件事故当時のXの両膝の位置関係からすると、両膝関節の内側半月板を同時に損傷することは考え難い、としながらも、本件事故後、それ以前にはなかった膝の痛みが出現していたこと、特に右膝の痛みが強いこと、Xが右膝の半月板切除手術を受けていたことなどの事情から、少なくとも右膝の半月板損傷は、本件事故によって生じたものと認められるとして、本件事故と右膝半月板損傷の間の相当因果関係を認めたものです。
裁判所の判断のポイントは、受傷状況としては、因果関係が否定されるようなものであったにもかかわらず、事故前後の症状の有無や、治療状況を重視して、事故と受傷の因果関係を認めたところにあります。社会通念からすれば、事故の状況からは考えられないような怪我を負っていても、事故以前になかった症状のために、医師も手術をしなければならないと考えて、実際に手術が行われていたのであれば、これは事故と半月板損傷との相当因果関係自体を認めるほかない、という判断であったのだと思います。

(2) もっとも、Xの右膝の半月板には、加齢性の変形性関節症という疾患があり、Xの半月板損傷は、本件事故と、その疾患がともに原因となって発生したものといえるとして、Xに生じた右膝半月板損傷について、裁判所は70%の素因減額をしました。
素因減額とは、当事者間の損害の公平な分担という見地から、被害者に、損害の発生・拡大に寄与する事情がある場合に、損害のすべてを加害者に負担させるのは公平でないとして、その被害者の事情を斟酌して、損害賠償額を減額するという理論です。
裁判所は、半月板損傷と事故に相当因果関係があることは認めつつも、事故の衝撃の程度が軽微であり、通常であれば半月板損傷が生じるような事故ではないということを考慮して、半月板損傷の要因の70%はXのもともとの疾患にあると認定したのです。
結局、Xの半月板損傷は、後遺障害としては認められたものの、素因減額で70%を引かれてしまい、後遺障害に関する損害に関しては、12級の自賠責保険金290万円よりも少ない金額しか認められない、という結果になりました。

後遺障害等級が認定されると、損害額自体が跳ね上がるのは確かですが、素因減額や過失割合など様々な事情によって、実際に受けられる賠償金がかなり少なくなってしまうということもあります。そのため、被害者の方が、自分が遭った事故では、どのような事情で減額されてしまう可能性があるのか、ということを把握しておくことはとても重要ですので、もし気になるようなことがあれば、当事務所までお気軽にご連絡ください。

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交通事故
下肢
神経・精神
14級
逸失利益

もうアルバイトはできない!?【後遺障害等級併合14級】

疼痛等感覚障害の裁判例(後遺障害併合14級)

~もうアルバイトはできない!?~(東京地判平成27年3月25日)

事案の概要

信号機のある交差点を右折しようとしたY運転の中型貨物自動車に、対向方向から直進してきたX運転の自動二輪車が衝突。
Xは右膝打撲挫創等の傷害を負い、自賠責保険から、右膝に残った約14センチメートルの縫合創とV字の挫創痕創縫合痕については後遺障害等級14級5号、右膝から下腿外側にかけての疼痛やしびれ、しゃがんで起立する際の疼痛等の症状については後遺障害等級14級9号に該当するとして後遺障害等級併合14級の認定を受けた。

<主な争点>
逸失利益の金額(労働能力喪失率・期間)

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 37万5680円 37万5680円
入院雑費 1万5000円 1万5000円
通院交通費 13万0370円 13万0370円
休業損害 74万0663円 74万0663円
逸失利益 1251万8312円 136万7700円
傷害慰謝料 164万円 142万円
後遺障害慰謝料 110万円 110万円
物件損害 10万4190円 10万4190円
弁護士費用 146万1763円 24万円
過失相殺 ▲78万8040円
損害のてん補 ▲200万6583円

判断のポイント

①労働能力喪失率・期間
②過失相殺

後遺障害が残ってしまうと、痛みや動かしにくさなどのせいで、思うように働くことができなくなってしまいます。
この“働きにくさ”を「労働能力喪失率」と呼び、“働きにくさ”が残ってしまう期間を「労働能力喪失期間」と呼びます。
そして、「逸失利益」とは、“後遺障害がなかったら、(もっと)稼げたはずの収入”のことをいい、おおざっぱに説明すると、事故前の収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間で計算できます。

Xは、事故前、美容室勤務に加え、焼肉店とファミレスでのフロア係のアルバイトを掛け持ちしていました。
X側は、美容師としての美容室勤務については労働能力喪失率5%だが、焼肉点とファミレスでのアルバイトについては以下の通り労働能力喪失率100%だと主張しました。
X側は、①しゃがんで起立する際に強く痛むため、フロア係のアルバイトを辞めざるをえなかったこと、②本件事故の後遺障害により,美容師として立ち仕事をすると足が非常にむくむようになり、夜間にアルバイトをすることが難しくなってしまったこと、③Xは、症状固定時52歳の女性であり、長年にわたり美容師として稼働してきたので、立ち仕事以外のアルバイトで雇用されることは難しいことから、Xは現実にアルバイトの収入を失い、今後も原告がアルバイト収入を得られる可能性はほとんどないといえるとして、アルバイトとしての稼働分についての労働能力喪失率は100パーセントとすべきと主張したのです。
また、いずれの仕事に関する逸失利益についても、労働能力喪失期間は16年と主張したことから、X側の主張する逸失利益は極めて高額となりました。

これに対して裁判所は、①いずれの仕事も立ち仕事や膝を曲げる必要がある業務が中心で、膝や下腿への負担が大きい業務であって、Xは美容室の勤務には復帰できたものの焼肉店やファミレスでのアルバイトには復帰できないまま退職したのだから、Xに残った痛みやしびれの症状が労務へ及ぼす影響を軽視することはできないこと、②Xは事故から2年近くが経過した裁判の時点でも、しびれや痛み、むくみ等の症状が続き、整骨院の通院を続けていて、現段階で直ちに症状が緩解する傾向にあるとは認められないことから、Xの労働能力喪失率は5%、労働能力喪失期間は7年間と判断しました。
また、X側が主張した「立ち仕事以外のアルバイトには就けないだろうから、アルバイトに関して労働能力喪失率100%だ!」という主張に対して、Xの後遺障害は右膝から右下腿外側に限られた症状であり、この後遺障害の部位・程度に照らせば、アルバイトとして稼働することが不可能になったとは認められず、アルバイトとしての稼働分も含めて労働能力喪失率を5%と認めるのが相当と判断したのです。

本来、後遺障害は、“もう治らない”として認定されるものですが、一般的に後遺障害の中では軽症とされる14条9号などの場合は、労働能力喪失期間も5年などと短期でしか認められない傾向があります。
もちろん、具体的な事情によってもっと長く認定されたり、逆に短く認定されるものもあります。
この事件の場合は、事故から2年近くも経っているのに症状が続いていて整骨院にも通っていることから、普通より少し長い7年の労働能力喪失期間が認定されていますが、このような事情だけからすぐに他の事案でも長めで認められるとは限りません。
それぞれの事案の特徴や固有の事情なども考慮して慎重に判断しなければならないものなのです。

また、この事件では、Xの過失が15%として、15%分賠償額が差し引かれました。
この事件では、過失割合についてXとYで争いがなく、X側も15%分差し引かれることは分かっていたので、それほど問題はなかったかもしれません。
しかし、過失割合は、お客様の得られる賠償額に大きく影響してくるものです。当事務所にも、「保険会社が提示してくる過失割合が妥当か」、「どうして自分に過失があるのか分からない」など過失割合について多くのご相談が寄せられます。
過失割合は、法律の専門家である弁護士でも、被害者の方や目撃者の方にから事故状況についてよくよく伺った上で、場合によっては警察・検察から捜査記録を取寄せる等しなければ判断できない難しいものです。

ぜひ、一度当事務所にご相談ください。
みなさまが適正な損害賠償を受けられるためのお手伝いをさせていただければと思っております。

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交通事故
下肢
4級
因果関係

義足の一般的な水準【後遺障害併合4級】

下肢喪失障害等の裁判例(後遺障害併合4級)

~義足の一般的な水準~(福岡地判小倉支部平成25年5月31日)

事案の概要

Yが追い越し禁止場所であるトンネル内部で、先行する大型貨物自動車をその右側から追い抜こうと加速し対向車線に進出したところ、同対向車線を走行してきたX1と衝突。
X1は右大腿骨幹部開放骨折、右下腿骨幹部開放骨折、右上腕骨顆上部粉砕骨折等の傷害を負い、右大腿切断処置等を受けた結果、右大腿以下を喪い、その他の障害も残存したため、X1がその賠償をYに請求した。
また、X1の妻であるX2も、X1の障害につき固有の損害を請求した。

<主な争点>
①X1の事故と因果関係ある損害範囲はどこまでか?
②X2には、事故と因果関係の有る損害が認められるか?

<主張及び認定>

X1の損害

主張 認定
治療関係費 404万2572円 392万6462円
症状固定前の装具代 158万4159円 158万4159円
入院雑費 30万1500円 30万1500円
付添人交通費 18万1866円 18万1866円
通院交通費 9万6690円 9万6690円
付添介護費用(入院中) 140万7000円 140万7000円
付添介護費用(通院中) 318万4000円 131万3400円
将来の付添介護費用 5698万4607円 569万1372円
義足(日常用) 3539万5587円 587万5900円
義足(作業用) 1156万7930円 0円
義足(運動用) 1196万5836円 0円
右手指義手 366万2009円 46万7784円
車いす 106万5823円 66万6600円
入浴補助用具 31万1125円 4万3641円
四輪車改造費用 38万8010円 33万9866円
三輪バイク(通勤用) 144万7968円 188万0288円
三輪バイク(ツーリング用) 702万357円 0円
家屋改造費 655万6278円 655万6278円
将来家屋立替費用 6553万7679円 0円
休業損害、傷病逸失利益 615万0976円 68万0364円
給与逸失利益 1億0201万3577円 7474万8742円
退職金逸失利益 569万4480円 0円
傷害慰謝料 410万0000円 379万0000円
後遺障害慰謝料 2300万0000円 2388万0000円
既払金控除後元本 3億4795万8763円 1億2772万7433円
弁護士費用 3067万0000円 1277万0000円
合計 3億4860万8434円 1億4049万7433円

X2の損害

主張 認定
休業損害 105万3318円 0円
固有慰謝料 300万0000円 0円
弁護士費用 40万0000円 0円

判断のポイント

①X1の損害と因果関係

本件でX1は様々な費目の損害を請求していますが、中には0円と認定されているものがあります。これは、本件事故と因果関係が認められない損害と認定されたということです。
損害賠償は、事故をきっかけに生じた損害なら何でも補償がなされるわけではありません。そのような事故によって通常生じる損害であると法的に認められて初めて補償を受けることが出来ます。この考え方を「相当因果関係」といいます。
例えば本件ではX1は日常用の義足の他に、作業用や運動用の義足費用についても請求しています。この点について裁判所は「複数の義足を用いることでより快適になることは否定されないが、性能が良く汎用性の高い義足及び車いすの併用の範囲を超えて、本件事故との相当因果関係内にある損害と認めること出来ない」と判断しています。
これはツーリング用の三輪バイクについても同様の判断がなされています。
また、日常用の義足についても、実際にX1が使用しているものは300万円以上する高性能なものでしたが、裁判所はそのような高性能なものが必要であるとはいえないとし、一般的な水準として100万円の範囲で認め、これを基準として将来の交換費用等を産出しました。

②X2の損害と因果関係

本件では、事故には直接遭っていない妻のX2も損害賠償請求をしています。
X2の主張としては、「X1の介護のために休業したためその補償を求める」「配偶者であるX1が重傷を負ったことからX2も精神的損害を負ったため、賠償を求める」というのが大筋です。
この点、裁判所は前者についてはX1の損害として「付添い介護費用を認めており、重ねて休業損害を認めることはできない」と否定しました。
また、精神的損害についても「X1の症状、生活状況、X2が平成23年8月にX1と離婚していること等を考慮すれば」慰謝料は認められないとしました。配偶者や子どもなどは、近親者が死亡した場合に固有の慰謝料が認められます。これは必ずしも死亡に限らず、死亡に匹敵するような場合(植物状態等)にも近親者固有の慰謝料が認められる可能性があります。しかし本件では、X1は重傷とはいえ仕事にも復帰できていることや、その後のX2との生活状況からすると、「近親者の死亡」に匹敵するほどの精神的損害がある場合ではないと判断されました。

コメント

本件は、損害費目をかなり細かくかつ多様に請求している点が特徴です。
民事損害賠償は「損害の公平な分担」という理念があるので、事故をきっかけにかかった費用なら全てが認定されるというわけではないのが、法律の現状です。
本件では、義足について「一般的な水準」というもので、仮定的な算定がされています。
もっとも、全てにおいてこの「一般的な水準」が妥当するとも限りません。
義足の美観目的費用(機能的には変わらないが、見た目を実際の脚に近づけるための費用)につき争われた事案で「不法行為における賠償の対象となる財産的損害とは、不法行為前の状態と不法行為後の現実の状態との差を財産的に評価したものと解される」としたうえで、「本件事故がなければ有したであろう状態と比較して、控訴人の精神的苦痛の点を捨象しても上記義足等の代金相当額を下回らない差が存することは明らかといわなければならない」として、認めた裁判例があります(福岡高判平成17年8月9日)。
損害賠償は「損害の公平な分担」と同時に、「原状回復」をも目的としていることからすれば、下肢を喪失したという不可逆の事実に対して、「一般的な義足で良いだろう」というのはいささか乱暴な議論にも思えます。十全な脚の代わりというものは、現在のテクノロジーでも未だ不可能であることからすれば、可能なかぎり快適な義足を求めたいのは当然の願いだと思います。この線引きをどこにするかというのが、難しいところです。
結局のところ、事故による症状と、その不都合性、解消の必要性などを、事案に応じてひとつひとつ主張立証していくしかないと思われます。
なお、義足の点については、「この先テクノロジーが進歩した結果、安くなるかもしれない」という点と、「この先テクノロジーが進歩した結果、より良いものが(高額だが)手に入るようになるかもしれない」というような不確定要素もあります。これらの点も、将来義足費用の部分の賠償額にかかわってくることがあります。
このように、多岐にわたる論点がありうるので、専門家と相談の上、適切な賠償請求をする必要があります。ぜひご相談ください。

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