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裁判例: 神経・精神

交通事故
神経・精神
顔(目・耳・鼻・口)
高次脳機能障害

成長への影響と、親の思い【後遺障害5級相当】

高次脳機能障害の裁判例(5級相当)

~成長への影響と、親の思い~(名古屋地判平成25年3月19日)

事案の概要

X1(10歳)が自転車で車道を横断中にYの運転する自動車に衝突させられた。
X1は、頭部外傷、肺挫傷、肋骨骨折、顔面骨折、顔面打撲等の傷害を負い、約2年間の治療を受けたが、高次脳機能障害が残存したため、これについて損害賠償請求をした。
また、X1の父であるX2は、X1が将来通常の労務ができないことが見込まれるため、勤務先を退職し、X1のためにNPO法人を設立することを企図したため、勤務先退職による逸失利益を請求した。
X1の母であるX3は、X1が事故に遭った後の場面を目撃したことにより、フラッシュバック等の症状が出、この治療を受けたため。この治療費等を請求した。

<争点>
①X1の後遺障害の重さ
②X2の損害内容
③X3の損害内容

<請求額及び認定額>

<X1の損害>

主張 認定
治療費・通院交通費 12万1655円 12万1655円
入院雑費 31万4094円 12万6000円
入院付添看護費 54万6000円 52万9200円
退院後介護費 427万7000円 263万2000円
入通院慰謝料 304万8000円 200万0000円
逸失利益 8371万5099円 5346万9656円
後遺障害慰謝料 2500万0000円 1400万0000円
将来付添費 4581万2501円 2114万4231円
雑費その他 35万3779円 0円
症状固定後の検査費用等 58万1679円 58万1679円
弁護士費用 800万0000円 425万0000円

<X2,X3の損害>

主張 認定
X2の逸失利益 2500万0000円 0円
X3の治療費・通院交通費 18万3430円 0円
X2、X3固有の慰謝料 各1000万0000円 各250万0000円

判断のポイント

①X1の後遺障害の重さ

X1は事故により脳損傷を負い、高次脳機能障害が生じています。
しかし、高次脳機能障害と一言で言っても、その程度や症状はさまざまです。したがって、被害者それぞれに、事故前には何ができたのか、事故後には何ができて何ができないのかという点をきちんと確認する必要があります。
また、高次脳機能障害は、被害者本人には症状の自覚がないことがほとんどですので、ご家族や周囲の方の助けが必要となります。
X1は10歳の時に事故に遭い、事故後は1ヶ月以上意識不明の状態でした。意識が回復した後は、言葉を発せず、医師からは3歳児の状態であるといわれるほどでした。
その後、徐々に回復し本件訴訟時には中学校の普通学級に進学してはいましたが、易怒性、性格の異常等の人格変化、記銘記憶力、認知力、言語力、理解力、判断力、集中力などが軒並み低下していました。
裁判所は、これらを認定した上で、周囲の支援の下一人で通学している点も踏まえ、「単純繰り返し作業に限定すれば、一般就労ができない又は極めて困難であると評価することはできない」と判断し、後遺障害等級5級相当であると判断しました。

高次脳機能障害は、このように、できないことやその程度から、就労可能性を判断して等級を認定します。
社会生活に服することができるか、という観点からの分析が必要となりますので、家庭や学校、職場での状況が重要な資料になるのです。

②X2の損害内容

X2は、X1のために自身が退職してNPO法人を設立することを決意しています。そのため、退職後の逸失利益を請求していますが、裁判所はこれを事故による損害と否定しました。
そもそも、直接事故の被害に遭った人間以外は、賠償請求が認められることはかなり難しくなります。
本件では、裁判所は「退職すること自体、X2の意志に基づくものである」とした上で「X1に対する就労支援や作業所が必要であるとしても、後遺障害が残存したX1に対する随時の声かけ、看視のための将来の介護費、後遺障害逸失利益及び後遺障害慰謝料が損害として認められる」ことから、それ以上にX2固有の損害として逸失利益を認めることは相当でないと判断しました。
X2としては、息子の将来の受け皿を作るために、お金度外視で頑張るという意図だったものと思われますが、X1の将来の不利益については、X1に対する慰謝料や逸失利益によって補填されていると判断されたものです。
もっとも、将来ある息子が、生死不明状態になり、回復後も重度の後遺障害を残しているという点は、死亡に比肩し得る損害を受けたものといえるため、固有の慰謝料を認めました。

③X3の損害内容

X3は、本件事故によりフラッシュバック等に悩まされるようになったことで、この治療費等を請求しましたが、これも裁判所は否定しました。
これもやはり、X3は、事故後のX1の様子を目撃してはいますが、本件事故を直接に体験した被害者であるとは言えないため、間接損害となってしまうことから、事故と因果関係のある損害といえないためです。
事故をきっかけに生じた損害が何でも賠償されることになってしまうと、無限に賠償範囲が広がってしまいますし、加害者としてもどこまで賠償すればよいかが予測できなくなってしまいます。
したがって、基本的には、直接の被害者に事故によって通常生じうる範囲の損害が、賠償の範囲となります。
本件では、X3は事故直後の現場を目撃してはいますが、これは直接交通事故を体験したわけではないため、間接的な損害となってしまいます。
もっとも、X2と同じ理由から、固有の慰謝料は認められています。

コメント

事故によって、脳損傷が生じた場合は、高次脳機能障害が発生する可能性があります。
本件では、かなり重度の障害が残ったため、立証はそこまで困難ではなかったと予測されますが、年少者が事故に遭った場合には、障害の立証が難しい場合もあり得ます。
成長過程ということもあり、どこまでが高次脳機能障害の影響で、どこからが単純な学力の問題なのかが判然としないこともあるからです。
事故後に、今までと比べて学力が落ちた、理解力が落ちたという場合には、脳損傷が影響している可能性があります。
そのような可能性については、事故後の治療や検査の状況から、脳の障害を立証できないかどうかの慎重な検討が必要となります。

学習障害や発達障害が急に見られるようになった裏に、外傷による高次脳機能障害が隠れているかもしれません。
軽はずみに示談をしてしまう前に、弁護士にご相談ください。

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交通事故
神経・精神
脊髄損傷

玉突き事故の果て【後遺障害1級】

脊髄損傷の裁判例(後遺障害1級)

~玉突き事故の果て~(神戸地判平成20年4月11日)

事案の概要

X1(当時43歳・女性)が普通乗用自動車に乗り信号待ち停車中、後続車が2台Xの後方に停車したところ、そのさらに後方からY運転の普通乗用自動車が追突。Xは4台玉突き事故の先頭車両として、追突を受けた。
これによりX1は、脊髄損傷により両上下肢に麻痺が残ったとして、Yに対し損害賠償を請求。X1の父母であるX2及びX3も、固有の損害を請求した。

<争点>
①X1が脊髄損傷等を本件事故によって負ったといえるか
②事故時に無職であった被害者に、逸失利益が認められるか
③X2及びX3に、固有の損害が認められるか

<請求額及び認定額>

<X1の損害>

主張 認定
入院雑費 26万9100円 26万9100円
付添看護費 1618万4000円 780万1000円
将来の介護費 1億0973万9580円 9043万1517円
車椅子購入費 520万6966円 514万4479円
自動車改造費 382万2781円 382万2780円
介護用ベッド 2万1400円 6万7185円
福祉機器等 451万8877円 409万3980円
家屋改造費 2625万7650円 2625万7650円
休業損害 2318万5788円 0円
逸失利益 5411万4158円 3704万2341円
入通院慰謝料 600万0000円 468万0000円
後遺障害慰謝料 3000万0000円 2300万0000円
弁護士費用 1000万0000円 1000万0000円

<X2の損害>

主張 認定
慰謝料 500万0000円 200万0000円

<X3の損害>

主張 認定
慰謝料 500万0000円 200万0000円

判断のポイント

等級判断の分かれ目

①X1が脊髄損傷等を本件事故によって負ったといえるか
本件でまず問題となったのは、X1の症状と本件事故との因果関係です。
本件事故は、加害車両含む4台もの追突事故ではありますが、間の二車両の乗員に傷害結果は発生しておらず、X1車両の損傷状況も、バンパーが少し凹んだ程度でした。そうすると、果たしてX1に脊髄損傷という重大な傷害を負わせるような事故であったかという点が問題となります。
また、X1の症状推移も、一時は知覚障害や麻痺が軽快したものの悪化していることが見受けられ、脊髄損傷における症状の推移とは整合しない点でも問題となります。
しかし、本件で裁判所は、これらの点について、X1が本件事故以前には身体に障害を負っていなかったこと、X1にみられた椎間板ヘルニアが画像上外傷性だと認められること、各種検査上X1に確かに麻痺や排尿障害が生じていると認められることから、X1に残存した障害は、本件事故によって生じたものであると認定しました。そして、脊髄損傷における症状の推移と整合しない点については、確かにX1の「症状を全て脊髄損傷によって説明することには無理がある」としながらも、「その全てを脊髄損傷によって説明することができなくても、本件事故による脊髄損傷及びこれに起因する何らかの原因によって生じたというべきであり、その原因が明らかではなくてもX1の両上下肢麻痺及び排尿障害は社会通念上本件事故によって生じたものである」と判断しました。
つまり裁判所は、
(1)事故によって脊髄損傷が生じたことは画像上認められる
(2)脊髄損傷に伴う症状が出ている
(3)整合しない症状についても、本件事故が原因といえるだろう
というような判断をしていることになります。
さらに着目すべきは、裁判所が「むしろ、Y1が上記の原因が本件事故とは無関係の事由によって生じたものであることを主張及び立証すべきである」と付言しているところです。
通常、交通事故に基づく損害賠償請求をする際には、その事故によって損害が発生したということと、その損害の額は、請求する側、つまり被害者がしなければなりません。これを立証責任といいます。つまり「事故によって身体のどこそこがどうなってどういうメカニズムで現在の症状が出ています」ということを主張するのみならず、立証しなければならないのです。しかし、現代医学が発展してきているとはいえ、身体のことは未だ分からないことだらけ。被害者が抱えている症状について、全てをこと細かく立証するということは事実上不可能であることは少なくありません。
この点本件では、障害の大元となる脊髄損傷とそれに伴う症状が認められれば、その他の症状について多少整合しないものがあったとしても、これは社会通念上本件事故によって生じたものとし、そうでないことを加害者が立証すべきだとしているのです。

②事故時に無職であった被害者に、逸失利益が認められるか
X1は本件事故にあった時点では、腎臓を悪くし、無職でした。そのため、休業損害は認められませんでした。
では、このような場合、将来分の休業損害とも言える逸失利益は認められるでしょうか。
一般的には、就労の蓋然性があれば事故時に無職であっても一定範囲で逸失利益が認められます。就労の蓋然性というと難しいですが、「働く意欲」と「働ける能力」があるかどうかということです。
本件では、X1は確かに事故時に無職でしたが、それは腎臓を悪くしたことで仕事を休んでいたという理由があり、高校卒業後は、学習塾の講師や家庭教師をしてきたという実績があるため、「将来的には収入を得ることができたというべき」と判断されました。このように、資格や職歴、そして無職である理由などが大きな意味を持つことになります。

③X2及びX3に、固有の損害が認められるか
本件では、事故には直接遭っていないX1の両親であるX2及びX3も損害賠償請求をしています。
両親や配偶者、子どもなどは、近親者が死亡した場合に固有の慰謝料が認められます。これは必ずしも死亡に限らず、死亡に匹敵するような場合(植物状態等)にも近親者固有の慰謝料が認められる可能性があります。
本件では、X1は本件事故によって脊髄損傷を負い、両上下肢麻痺及び排尿障害の後遺障害を残して症状固定し、移動には車椅子が必要で、食事には介助具が必要であるため、日常生活が困難であり、日常動作全般に介助が必要な状態であることから、「死亡にも比肩すべき精神的苦痛を被った」と認定し、両親に200万円の慰謝料を認めました。

コメント

本件は、軽微な事故態様と思える交通事故の被害者に対して、高額な損害を認めた点が非常に特徴的です。
上記のとおり、一般的には受傷の事実や損害の金額について、被害者が立証しなければならず、立証ができていないと判断される場合には、その部分については0円となってしまいます。
本件のような、物損が軽微な事故の場合、そもそも「受傷自体したといえるのか?」という点から争いになることも多く、この立証に苦心することも少なくありません。
本件で大きかったのは、画像上外傷性の椎間板ヘルニアであると認められているところです。通常は、この立証が最も困難ですが、本件では治療期間が相当長期に及んだことから、MRI画像における椎間板ヘルニアの状態を時系列で観察することができ、その推移から外傷性であると認定されているようです。
もし、この椎間板ヘルニアが外傷性だとの認定が受けられなかった場合には、
(1)軽微な事故であるから、ヘルニアが生じるとはいえない
(2)したがって、既往症のヘルニアが悪化したのみである
などの論理で、受傷が認められなかったり、大幅な素因減額がされていた可能性も否定できません。
やはり、医学的にどのようなことがいえるか、どのような立証材料があるかという点が非常に重要になってきます。後から「あの時画像を撮っておけば…」となっても、後の祭りという場合もあります。
そのような憂き目に遭わないためにも、交通事故後に身体の調子が思わしくなかったら病院に受診するのと同時に、弁護士にもご相談ください。

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交通事故
神経・精神
脊髄損傷
14級

後遺障害1級か、14級か【後遺障害14級9号】

脊髄損傷が認められなかった裁判例(後遺障害14級9号)

~後遺障害1級か、14級か~(東京地判平成22年9月9日)

事案の概要

X(46歳女性、兼業主婦)は、普通乗用自動車に乗車し、赤色信号規制に従い停止していたところ、Yの運転する普通乗用車がX車の後部に追突。
Xは、頚椎以下の両上下肢の知覚鈍磨・異常感覚・筋力低下、肩・肘・手・股・膝・足・足趾の関節機能障害、膀胱直腸障害等を訴え、損害保険料率算出機構へ後遺障害の申請をしたが、いずれも非該当と判断された。異議申立をしても結果が変わらなかったことから、Xは残存している障害は後遺障害等級併合1級に該当するとして、Y及びYの勤務先に対して損害賠償の請求をした。

<争点>
Xに後遺障害が認められるかが主な争点となりました。
具体的には、Xに残存している症状の内容・程度と、事故との因果関係の有無が問題となりました。

<請求額及び認定額>

主張 認定
後遺障害等級 併合1級 14級9号
入院付添費 46万8000円 46万8000円
休業損害 1546万8050円 262万6650円
逸失利益 3948万3802円 75万5562円
入通院慰謝料 600万0000円 210万0000円
退院後付添費及び介護費 6726万6268円 0円
損害のてん補 ▲163万5900円
弁護士費用 1500万0000円 54万0000円
請求額(一部請求) 9821万5952円
合計 595万4312円

※治療費については、既に任意保険会社より支払いを受けており、争いなし。

判断のポイント

等級判断の分かれ目

本件では、原告側が併合1級の後遺障害の主張をしていたのに対して、裁判所は頚部痛について14級9号の「局部に神経症状を残すもの」に該当するとのみ判断し、それ以外の後遺障害を認めませんでした。 一般的な傾向としては、損害保険料率算出機構での結果を裁判で覆すのは難しいと言われますが、本判決では、単に損害保険料率算出機構の結論を追認するのではなく、症状の発症時期、内容、その後の推移等を、医師の診断書や看護師の看護記録等から丹念に認定していった上で、結論付けています。
本件は、事故直後に知覚障害・運動障害が認められ頚髄損傷の診断を受け、その後知覚障害等は順調に軽快しましたが、事故から約5ヶ月後に一転して体のしびれ等を訴え始め、意識消失や膀胱障害も見られるようになっています。 これらについて、裁判所は、そのような症状の存在自体は認めたうえで、一般的な頚髄損傷の経過と異なる点(突然悪化することはない)、Xのような症状が引き起こされる頚髄損傷であれば見られるはずのMRI画像所見が見られない点等から、Xの症状は本件事故に起因するものではなく、Xの心因的な要因に基づいて発症したものであるとし、事故との因果関係を認めませんでした。
もっとも、頚部の残存疼痛については、本件事故態様からかなり大きな衝撃がXの身体に加わったといえること、それまでの診療経緯から、「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害14級9号に該当すると認めました。

コメント

本件ではまず「今どういう症状があるか」ということが問題になりました。
仮に診断書上「脊髄損傷」と記載があるとしても、実際のところはどうなのか、どのような症状があるのか、ということが争いになりえます。
これについては、それまでの診療記録や看護記録、適時実施された画像検査結果や意見書の内容などを利用し、具体的で詳細な主張立証をしていく必要があります。
そのためには、適切に入通院をし、きちんと自覚症状を医師または看護師に伝えていくことが重要になります。

また、本件ではそのほかに、「それが交通事故と因果関係があるか」ということも問題となりました。
ここにいう「因果関係」というものは、法律上加害者に責任を負わせるべきか否か、という価値判断を含むものなので、一般的に使われる「因果関係」とは異なります。
たとえば医学的に見れば、事故に遭ったことを契機として、精神に負荷がかかりそのような症状を発症しているといういみで「因果関係がある」と言えるのかもしれませんが、法律上は必ずしもその判断と同じにはならないのです。
この法律上の因果関係の有無はかなり専門的な判断になります。

いずれの点についても、「診断書に書いてあるんだから」「裁判官はきっと分かってくれるはずだ」との過信は禁物です。

自身の損害について適切に賠償を受けることをお考えの方は、なるべく早いうちに、当事務所の弁護士までご相談ください。

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交通事故
神経・精神
脊髄損傷
3級
過失割合

治療費・リフォームはどこまで認められる?【後遺障害等級3級】

脊髄損傷についての裁判例 (後遺障害等級3級)

~治療費・リフォームはどこまで認められる?~(東京地判平成26年12月24日)

事案の概要

X(51歳男性、自営業)は、大型自動二輪車で第2車線を直進していたところ、その前方道路において路外駐車場へ後退進入するために切り返し中だったY(被告)車両と衝突。

Xは、脊髄損傷、四肢麻痺等の傷害を負い、後遺障害等級3級3号が認定されたため、Y及びその勤務先である会社に対し、損害賠償を請求した。

<請求額及び認定額>

請求額 認定額
治療費 737万0957円 653万2343円
リハビリ費用 719万1240円 7万4340円
下肢装具費 51万9825円 35万4938円
自宅付添費 5046万2452円 1716万7504円
入院雑費 21万6000円 21万6000円
その他諸雑費 96万7889円 86万2639円
通院交通費 3416万1112円 1803万5079円
家屋改造費 1301万4605円 46万2953円
休業損害 3069万4755円 2897万8737円
逸失利益 2億2133万7678円 1億4443万5642円
入通院慰謝料 264万0000円 264万0000円
後遺傷害慰謝料 1990万0000円 1990万0000円
物的損害 500万1761円 374万0081円
過失相殺(5%) ▲1217万0014円
損害の填補 ▲2472万3850円
弁護士費用 3776万0748円 2065万0000円
合計 2億2715万6392円

判断のポイント

治療費等について

一般的に、治療費やリハビリ費用は症状固定時までしか相手方に請求することはできません。
しかし、症状固定後も治療やリハビリ等の必要性があると立証することができれば、相当といえる範囲内で将来分の費用の賠償請求が可能となります。
本件では、原告側は、原告の症状(左手指の巧緻運動障害、左下肢支持性低下、膀胱直腸障害等)の程度からすれば、症状固定後も治療やリハビリが必要だと主張して、将来分の治療費やリハビリ費用、通院交通費を請求していました。
これについて裁判所は、主治医らの「今後増悪の可能性がありアフターケアを要する」や「永久に自己導尿が必要と考える」等の診断結果から、症状固定後も、平均余命に至るまで、症状の増悪防止及び排尿管理のため、整形外科及び泌尿器科を継続的に受信する必要性・相当性が認められると判断し、整形外科及び泌尿器科への通院については将来分の治療費を認めました。そして、これに伴う範囲での、リハビリ費用や通院交通費も認容されました。もっとも、内科や眼科など、後遺障害それ自体と直接関連しない通院については、必要性を認めませんでした。

家屋改造費について

脊髄損傷により四肢麻痺等になると、家屋をバリアフリーに改造する必要が生じることがあります。
本件でも、原告は階段昇降機の設置や、トイレのウォシュレット機能増設等の改造が必要だとして、これらの費用を請求していました。
もっとも、裁判所は、Xの症状の内容や程度に加え、Xが退院後も本訴訟に及ぶまでの間階段昇降機やウォシュレットが未施工であるにもかかわらず日常生活を送っていることから、自宅付添費とは別にこれらの設置の必要性はないと判断しました。
(一部トイレは既に改修済みであり、この費用は認めています。)

過失割合について

本件は、過失割合の認定も興味深いところです。
本件事故は、路外の駐車場にバックで進入しようとしていたY車両が、切り返しの際にXが直進進行していた第2車線まで前進して塞いでしまい、衝突したという事案です。
原告側は、Yは、Y車両を幹線道路の第2車線まで前進させる際には、十分に走行車線の安全を確認すべきであり、また、そもそもそのような運転行為をしなくても十分に切り返しはできるため、Yに著しい過失があり、Yの一方的な過失であると主張しました。
対して、被告側は、Xは見通しのいい幹線道路を走行していたのであるから、Y車両と衝突するにはXの側にも脇見運転に近い前方不注視があったとし、Xに3割の過失があると主張しました。
この点裁判所は、Yは、X車両が走行してくることに気づいたにもかかわらず、切り返しを行い、Y車両を第2車線まで前進させたという過失があり、この過失は大きいとしながらも、Xとしても、ハザードランプを点灯させた状態で駐車場前の路側帯に停車していたY車両を認識していたのであるから、この動静に注意すべきであったとして、Xに5%の過失を認めました。

コメント

非常に丁寧な事実認定を行い、一つ一つの論点に判断を下している裁判例です。
過失割合にしろ、損害額にしろ、「どのような事実があるのか」ということが大切で、これを立証できるかが鍵となります。
本件でも、主治医の診断書や意見書の記載が重要視され、それに基づく事実認定がされていますので、通院期間を通して、主治医の先生とのコミュニケーションをうまくとり、自身の症状や医師としての見解を書面に固定化してもらっておくことが肝要となります。
ひとつの事実が認められるか否かで大きく賠償額が変わってくることもあるので、重度後遺障害が見込まれる場合には、お早めに弁護士にご相談いただき、後の立証に備えていただきたく思います。

 

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首・腰のむちうち(捻挫)
14級

主治医の診断を採用せずに後遺障害の程度を判断した裁判例【後遺障害14級9号】

主治医の診断を採用せずに後遺障害の程度を判断した裁判例

大阪地裁平成28年6月30日判決(14級9号)

事案の概要

家族4人(母X1、子3人X2、X3、X4)が乗っていた乗用車が、交差点内で右折をするため停止していたところ、Y運転車両に追突された。X1及びX4は、事故後に残った後遺症について、損保料率機構より、それぞれ後遺障害14級9号が認定されたが、X1は、主治医より外傷性頚椎椎間板ヘルニア及び頚椎捻挫の診断を受け、また、X4については、中心性頚髄損傷、環軸椎関節亜脱臼及び外傷性頚椎環軸不安定症との診断を受けていたことから、X1及びX4がそれぞれ、より重度の後遺障害に該当すると主張して損害賠償を求めた事案(X2、X3も同様に訴訟を提起した)。

<主な争点>
①X1及びX4の後遺障害の程度
②X4(症状固定時11歳)の後遺症による逸失利益

<主張及び認定>

①X1

主張 認定
治療費 164万4162円 164万4162円
薬代 10万4410円 10万4410円
通院交通費 8万3974円 4万3355円
休業損害 95万6702円 95万1666円
入通院慰謝料 185万0000円 130万0000円
逸失利益 547万8082円 76万7880円
後遺障害慰謝料 390万0000円 120万0000円
損害の填補 ▲179万4327円 ▲179万4327円
弁護士費用 122万0000円 42万0000円
合計 1344万3003円 463万7146円

②X4

主張 認定
治療費 179万7970円 179万7970円
薬代 9万1760円 9万1760円
入院雑費 2万8500円 2万8500円
通院付添費 56万7000円 56万7000円
通院交通費 3万4135円 3万4135円
入通院慰謝料 215万0000円 145万0000円
後遺障害慰謝料 550万0000円 120万0000円
小計 2391万0011円 516万9365円
損害の填補 ▲213万2043円 ▲213万2043円
弁護士費用 217万0000円 30万0000円
合計 2394万7968円 333万7322円

判断のポイント

① X1及びX4の後遺障害の程度

1 裁判所の判断
X1は、本件事故後に左肩・首・肩甲骨周辺の重いつっぱり感や左肩・肩甲骨の疼痛など、頚部から左肩、左小指・薬指にかけて疼痛に伴う神経症状が生じていること、頚椎のMRIでも残存症状に整合する外傷性頚椎椎間板ヘルニアの画像所見が出ており、主治医であるA医師からも外傷性頚椎椎間板ヘルニアとの診断を受けていること、A医師の意見として、X1の主婦としての労働能力は20%程度、ピアノ講師としての労働能力は40%程度喪失しているとの判断があることなどを根拠に、少なくとも12級13号相当の後遺障害が残存していると主張しました。

また、X4は、本件事故後に左手の筋力低下、左手の知覚障害などの症状が残っていること、A医師から環軸椎関節亜脱臼、外傷性頚椎環軸関節不安定症、中心性頚髄損傷等の診断を受けており、また、X4の肉体的労働能力は30%喪失しているとの意見を受けていることなどを根拠に、9級10号相当の後遺障害が残存していると主張しました。

しかし、裁判所は、カルテの記載内容や頚椎MRI検査を行った他院の医師の読影結果などから、事故後まもない時期に行われた神経学的検査上異常がなかったことやMRI検査結果の内容から、X1の受傷内容は外傷性頚椎椎間板ヘルニアではなく、変形性頚椎症(画像上異常所見がない、もしくは経年性変化により頚部痛等の症状が出ている状態)であると判断しました。

また、X4の受傷内容についても、X1と同様に、カルテの内容や他院での画像の読影結果などから、A医師の上記診断を否定し、X1及びX4の残存症状については、損保料率機構の認定と同様に、いずれも局部の神経症状として、14級9号の後遺障害であると認定しました。

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以上のように、裁判所は、X1及びX4のいずれの残存症状についても、より上位の後遺障害等級を認定せず、損保料率機構の判断どおり、後遺障害14級9号に該当すると判断しました。
この事案においてポイントとなるのは、裁判所が、X1及びX4の主治医であったA医師の診断をすべて採用しなかったことです。

(1)医師の診断の正確性
医師のイメージとして、医学の知識や経験が豊富であり、診断内容が間違っていることはあまり考えられないと思う方もいらっしゃるかもしれません。確かに、医師の先生は、医師になるための知識や経験を積んできており、実際、多くの先生が正しい診断をされていると思います。
しかし、医師も人間である以上、絶対に正しい診断がされる保証はありません。たとえば、患者さんに寄り添おうとする思いが強いあまりに、客観的にはそこまでひどい怪我でなくとも、実際に残っている症状よりも重い症状が残っていると診断されてしまうこともあります。また、逆に、本当は重い症状が残っているにもかかわらず、そこまで大した怪我ではないとの理由で、軽い症状で診断されてしまうという場合もあります。
前者の医師の先生は、特に交通事故被害者の方からすると、自分のことを親身に思ってくれる良い先生という側面もありますが、他方で、実際に生じている症状について、客観的な診断をしてもらえないおそれがあるという側面もあります。
もちろん、その先生の診断結果は、その患者さんの傷病に対する1つの見解であって、それが必ずしも間違っているとはいえません。
ただ、画像所見や自覚症状、様々な検査結果などの事情に照らしても、客観的に見ると、そのような診断結果になることは通常考えにくい、と思われるような診断がなされることがあるのも事実です。
そのような場合に、信頼している主治医の先生がそう言っているから間違いないと信じきってしまうと、実際に裁判で診断内容とはかけ離れた認定がされ、期待はずれの結果になってしまうということにもなりかねません。

(2)本件について
本事案では、A医師は、X1の受傷内容については外傷性頚椎椎間板ヘルニア、X4については中心性頚髄損傷、環軸椎関節亜脱臼及び外傷性頚椎環軸関節不安定症と診断していましたが、いずれもそれを根拠付ける明らかな画像所見や神経学的所見はほとんど見受けられず、かえって他院の医師からはそれらの診断を否定する所見が出ていました。
そのため、裁判所は、A医師の診断内容について、X1及びX4の症状を医学的証明できる他覚的所見がない、もしくは合理的に説明することは困難であるとして、A医師の診断をすべて採用しなかったのです。
X1及びX4としては、何年にも渡って自分たちの治療を続けてきたA医師が、積極的に裁判にも協力し、X1やX4の労働能力喪失の程度まで具体的に意見を述べていたことから、A医師の診断内容に誤りはないと信じて後遺障害等級を争ったのではないかと思います。
客観的な検査結果等と診断内容があまりにもかけ離れていると、治療の経過全体の信用性に疑いをもたれてしまうという事態にもなりかねません。
被害者の方は、特に自分に有利な診断内容に疑いを持ちにくいとは思いますが、自分の怪我や症状と診断内容にギャップを感じた場合には、一度他院にセカンドオピニオンに行ってみるというのもよいかもしれません。

②X4の後遺症による逸失利益

1 裁判所の判断
X4は、残存した症状が後遺障害9級10号に相当することを前提に、基礎年収を賃金センサスとしたうえで、症状固定時11歳のX4が就労するであろう年齢である18歳から67歳まで、労働能力が30%喪失するとして後遺症による逸失利益を請求しましたが、裁判所は、14級9号の後遺障害を前提とすると、X4には後遺障害逸失利益を観念することができないとして、逸失利益自体を否定しました。

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(1)後遺症による逸失利益の計算方法
後遺症による逸失利益は、事故前年の年収に、労働能力喪失率と労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数(中間利息控除係数)をかけて計算されることになります。
たとえば、事故前年の年収が200万円であった人が、後遺障害14級9号の認定を受けた場合、14級9号の労働能力喪失率は5%、労働能力喪失期間は5年が目安とされていることから、
200万円×0.05×4.3295(労働能力喪失期間5年のライプニッツ係数)=43万2950円が後遺障害による逸失利益となるのです。

(2)未成年者の後遺症逸失利益
しかし、本事案のように、いまだ働いていない未成年者の場合、基礎年収をどうするか、労働能力喪失期間をどう考えるかという問題が生じます。
まず、基礎年収については、原則として、事故前年の賃金センサスの全年齢の平均賃金を基準として算定することになります。ここで、男子の場合は、男子全年齢の平均賃金が基準となりますが、女子の場合は、女子全年齢ではなく、男女全年齢の平均賃金が基準とされる点がポイントです。
また、いつから労働が制限されると考えるか、という点については、交通事故に遭わなければ就労によって得られたであろう平均的な金額が逸失利益になると考えられていることから、症状固定時18歳未満の未就労者の場合は、18歳から就労を開始すると考えることなるため、労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数から、症状固定時の年齢から18歳までの年数分のライプニッツ係数を差し引くことになります。
たとえば、症状固定時の年齢が16歳であった被害者が、後遺障害14級9号が認定された場合、目安とされる5年を労働能力喪失期間とすると、
4.3295(5年のライプニッツ係数)-1.8549(18歳-16歳=2年のライプニッツ係数) =2.4746
を基礎年収と労働能力喪失率に掛けることになるのです。

(3)本件について
本事案において、裁判所は、X4が症状固定時11歳であったことから、認定した後遺障害14級9号の労働能力喪失期間の目安とされる5年が経過しても、まだ16歳で、労働開始年齢に達していないということ理由に、後遺症による逸失利益を観念することはできないとして、X4の逸失利益を認めませんでした。
このような判断は、(2)のような賠償実務上の考え方からすると、やむを得ないものといえますが、個人的には、後遺障害慰謝料を増額するなどの考慮があってもよかったのではないかとも思います。

受傷内容や残存した症状については、基本的には主治医の先生に診断してもらうのが一番ですが、治療を受けていくうちに、診察内容や治療方針等に不安を感じられることもまれではありません。そのようなお悩みをお持ちの方についても、ご事情を伺ったうえで、アドバイスをさせていただくこともできますので、まずは当事務所までお気軽にご連絡ください。

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