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裁判例: 交通事故

交通事故
下肢
11級
併合

事故後に発症した右半月板損傷について右膝関節外側痛を認めた事例 【後遺障害12級相当】

事故後に発症した右半月板損傷について右膝関節外側痛を認めた事例

事案の概要

X(原告:44歳男性)が、自動二輪車を運転して片側2車線道路の左側車線を進行中、右側車線から左側車線に車線変更したY運転の自動二輪車に接触し転倒、右足挫滅創、右足関節内骨折及び右母趾屈筋腱障害等の傷害を負い、また、二次性のものとして右膝半月板を損傷し、12級右母基部底側痛の他、12級右膝関節機能障害があり、後遺障害等級併合11級に相当するとして、既払金484万5508円を除いた2905万0623円を求めて訴えを提起した。

<主な争点>
①Xの傷害、後遺障害の有無、逸失利益
②Xの過失の程度と過失相殺の可否

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 307万5061円 307万3061円
雑費 1万1587円 3152円
休業損害 228万8466円 228万8466円
後遺障害逸失利益 1970万3736円 1379万2615円
通院慰謝料 200万0000円 200万0000円
後遺障害慰謝料 400万0000円 350万0000円
物損 1万3000円 6500円
装具費等 18万7186円 18万7186円
小計 3109万1850円 2485万0980円
過失相殺 ▲5%
既払金 ▲484万5508円 ▲484万5508円
弁護士費用 260万0000円 188万0000円
合計 2884万6342円 2064万2923円

判断のポイント

① Xの傷害、後遺障害の有無、逸失利益

(本件事故と右膝半月板損傷の因果関係)
本件において、Xは、本件事故により、右足挫滅創、右足関節内骨折、右母趾屈筋腱障害の他、右膝半月板を損傷したと主張したのに対し、Yは、右膝半月板損傷については、本件事故発生時には認められず、本件事故から3年以上経過して初めて同傷害の診断がなされているので、因果関係が認められないと主張しました。

因果関係は、その事故が原因でその傷害が生じたことが相当であるといえる場合に認められるものです。

交通事故事件においては、通常は、事故によって直接発症した傷害について因果関係が認められます。

もっとも、本件において裁判所は、Xは、本件事故によって走行中の自動二輪車から路上に転倒したことにより、ほぼ全身に及ぶ挫創、挫傷の傷害を負ったが、特に右足については、右足挫滅創、右距骨骨挫傷、右母趾屈筋腱損傷の傷害を負い、そのため、長期間にわたり右足をかばって歩くなどしたことから、右膝に負担がかかり、右膝半月板損傷が生じるに至ったものと認められるとしています。

すなわち、右膝半月板損傷は、本件事故によって直接発症した傷害ではないものの、本件事故が原因で右足をかばって歩くことになりその結果生じたものであるとして、本件事故との間の因果関係を認めています。

(後遺障害の有無)
また、Xは、右母趾屈筋腱の損傷癒着により、右母趾関節の運動が制限され、歩行時に右母趾基部の底側に激しい痛みが生じている、また、右膝に痛みと運動制限があるとして、右母趾及び右膝の各後遺障害は12級13号に該当し、併合して後遺障害11級に相当すると主張しました。

これに対して裁判所は、後遺障害として、右膝関節外側の痛みのほか、右母趾基部底側の痛み、右母趾のMP関節及びIP関節の屈曲が困難であるなどの関節可動域制限が残存したものと認められると判断しました。

すなわち、交通事故との因果関係が認められた右膝半月板損傷が、右膝関節外側の痛みとして後遺障害まで認められたことになります。

また、ここで、MP関節や屈曲という言葉が出て来たので、その説明ついでに足の母趾関節にどのくらいの可動域制限が認められれば後遺障害が認められるのか確認します。

足の母趾関節については、医学的には、指先に近い方からIP関節、MP関節といいます。そして、いずれかの関節の正常可動域の合計値が3分の1以下に制限された場合、「足指の用を廃した」といい、1足の母趾の用を廃したときには、12級11号の後遺障害等級が認定されます。
IP関節では、60°曲げる(屈曲といいます)ことができれば正常とされていることから、その3分の1である30°以下の屈曲しか認められないのであれば用廃が認められます。
また、MP関節では、35°曲げることができ、60°反らす(伸展といいます)ことができれば正常とされていることから、その合計値である95°の3分の1以下の屈曲及び伸展しか認められないのであれば用廃が認められます。

本件に戻りますが、裁判所は明確に後遺障害等級について言及はしなかったものの、後遺障害慰謝料として350万円を認めました。

Xがどのような仕事や日常生活をしておりどのくらいの苦痛が生じているかによっても慰謝料は左右されますが、後遺障害等級12級が290万円であることから、裁判所は少なくともXの後遺障害について12級相当は認めていると判断したと考えられます。

(逸失利益について)
Xは、後遺障害等級併合11級を前提に、労働能力喪失率を20%、労働能力喪失期間を就労可能年数の19年と主張したのに対し、Yは、労働能力喪失率は5%、労働能力喪失期間は最大でも3年間であると主張しました。

裁判所は、上で述べたように、右膝関節外側の痛みなどを後遺障害と認めており、これらを前提に、労働能力喪失率は14%、労働能力喪失率はXの主張のとおり19年と認めました。

なお、後遺障害等級12級の場合、通常、労働能力喪失率は14%とされることから、この点についても、裁判所はXの後遺障害を12級相当と認めていると考えられます。

ここでも、右膝半月板損傷が、交通事故によって生じた傷害と判断され、後遺障害も認められたことによって、逸失利益の判断においても考慮されています。

② Xの過失の程度と過失相殺の可否

左側車線を走行していたXは、Yが右折の指示器を出したまま走行していたにもかかわらず、突然、左側車線に進入しXの進路方向に入ってきたことから、急ブレーキをかけ右方向に避けようとしたものの間に合わず、接触し転倒したと主張しました。
これに対してYは、右折の指示器は出しておらず左折の指示器を出して、後方を確認した上で左側車線に進入したと反論しました。
本件では、Yが左側車線進入の直前に右折指示器を出していたかどうかが争われています。

裁判所は、尋問において、Yが左側の方向指示器を点灯させたか否か記憶があいまいであるどころか、右側の方向指示器を点灯させた可能性まであることも述べるなど、あいまいな供述をしており、Yの主張は認められないとしました。

一方で、Xについても、Y車両を左方から追い抜くにあたって、その動静について十分慎重に確認していたならば、本件事故を回避し得た可能性があったとは否定し難いとして、5%の過失を認めています。

コメント

本件では、右足挫滅創等を負ったXが事故時に発症していなかった右膝半月板損傷について、右足をかばって歩くなどしたことから負担がかかって生じたとして事故との因果関係を認めたことが注目されます。そして、母趾関節の可動域制限などを障害と認め、それらを前提に、後遺障害等級12級相当である14%の労働能力喪失率を認めています。
仮に、右膝半月板損傷について、本件事故との間の因果関係を否定されていたら、後遺障害慰謝料や逸失利益の額に大きな差が生じていたでしょう。
交通事故には、因果関係や後遺障害の有無、逸失利益の算定、過失割合など、難しい法的判断が伴うものもあり、個人で適切な賠償額を請求するのは困難な場合があります。
適切な賠償額を請求するためにも、是非当事務所にご相談いただければと思います。

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交通事故
下肢
12級
併合
逸失利益
過失割合

自転車vs自動車 ~傘差し運転の過失割合【後遺障害12級13号相当】

自転車vs自動車 ~傘差し運転の過失割合~(後遺障害12級13号相当)

事案の概要

X(原告:64歳女性)が、交差点で傘を差して自転車に搭乗中、衝突までXに気付かなかったY(被告:83歳男性)運転の乗用車に出会頭に衝突され、左大腿骨転子下骨折、左下腿打撲等の傷害を負い、約1年2ヶ月入通院して、自賠責14級9号後遺障害認定を受けたが、12級7号または13号左股関節部の疼痛、14級9号左足関節の痛み等から併合12級後遺障害を残したとして、既払金201万8006円を控除し、1354万3374円を求めて訴えを提起した。

<主な争点>
①Xの過失の程度と過失相殺の可否
②Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 151万8006円 151万8006円
入院雑費 9万9000円 9万9000円
通院交通費 1793円 1793円
文書料 1万0800円 1万0800円
装具購入費 1万9300円 1万9300円
休業損害 246万5545円 124万3400円
後遺障害逸失利益 440万1436円 236万7911円
入通院慰謝料 225万0000円 200万0000円
後遺障害慰謝料 350万0000円 280万0000円
物損 9万5500円 9550円
過失相殺 ▲15%
既払金 ▲201万8006円 ▲201万8006円
弁護士費用 120万0000円 65万0000円
合計 1354万3374円 719万1290円

判断のポイント

① Xの過失の程度と過失相殺の可否

本件の具体的な検討に入る前に、過失や過失相殺について少し説明をします。
過失とは、ざっくりと言えば不注意のことを言います(法律的には客観的注意義務違反といいます)。
そして過失相殺とは、被害者が加害者に対して損害賠償請求をする場合、被害者にも過失があったときに、公平の観点から、損害賠償額を減額することを言います。その減額の度合いは過失割合で決まります。

交通事故においては、過失割合は事故態様に応じて類型化されており、ある程度決まっています。実務においては、判例タイムズ社という出版社が出している「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」という本が使われていますが、これは裁判例をもとにして過失割合の基準が決められています。
典型的な事故の場合には、その基準をそのまま用いる場合もありますが、ある程度修正要素も定められており、個別具体的な事情に応じて過失割合の修正がなされます(あくまで目安ですが)。

例えば、本件のように、自転車と四輪者が信号のない同幅員の交差点で出会いがしらの衝突事故に遭った場合、基本的には自転車が2割、自動車が8割の過失があるとされます(20:80と表現されます)。ただ、自転車の側が児童や高齢者である場合には被害者の過失割合から-5の修正を行い(すなわち15:85)、自動車に著しい過失(要はひどい不注意)がある場合には被害者の過失割合から-10の修正を行うとされています(すなわち10:90となります)。

過失割合は、上で述べたように、過失相殺で減額する度合いを言いますから、被害者が請求できる損害賠償額にかかわってきます。
つまり、被害者が怪我をして100万円の損害が生じている場合、20:80の過失割合であるときには、被害者は80万円の請求しかできないことになります。

それでは、これらの点を踏まえて本件の裁判例を見てみたいと思います。

本件では、Xは、高齢者に準ずる者であること、Y車の速度の点やY車が衝突するまでX車に気付かない点でYに著しい過失があることからすれば、過失相殺すべき事案ではないと主張しています。これに対してYは、Y車がX車の左方車であり優先関係にあること、Xが折りたたみ傘を持って片手運転をしていたことから、Yの過失割合を加重する理由にはならないと反論しました。

この点につき裁判所は、Yには、X車と衝突した後にすら、右方から進入してきたX車について、左方から進入してきたと当初思っていたほどX車の発見が遅れたことからすれば、Yには前方不注視及び交差道路の安全不確認という点で、一般的に想定される程度以上の著しい過失があるとしました。

また、Xには、右手に傘を差したまま片手で自転車を運転した点、左方のY車を発見したにもかかわらず停止するものと軽信して進行したことについて過失があるとする一方、64歳であり注意力・判断力が低下しがちな要保護性の高い存在であることも考慮すべきとしました。
その結果、Xに15%の過失相殺を行うのが相当と判断しました。

上で述べた過失相殺の例のように、目安としては、自転車の運転者が高齢者の場合は-5、相手に著しい過失がある場合は-10を、被害者の過失割合において修正します。
もっとも本件では、その両方が考慮されているにもかかわらず、Xに15%の過失割合が認定されています。すなわち、Xの傘差し運転などの過失が相当程度考慮されていることがわかります。

近年、自転車事故が多くなり、取り締まりや罰則も厳しくなっていることからも、この裁判例の結論は妥当なものと言えるでしょう。

② Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

本件では、Xの後遺障害逸失利益も争点となりました。
Xは、左股関節部につき12級7号又は12級13号、左足関節部につき14級9号、左下肢の醜状につき準14級とされるべきで、併合12級が相当であると主張し、Yは全面的に否認しました。

裁判所は、Xは、本件事故により左大腿骨転子下骨折の傷害を負い、インプラント(髄内釘)を固定する手術を受けたこと、骨癒合が完成し症状固定時まで一貫して疼痛を訴えていたこと、症状固定時において疼痛が残存し、担当医師は症状固定時においても大転子部にインプラント突出部位があることが疼痛の原因となっている旨診断していることを認定しました。

そのうえで、Xの左臀部の疼痛は、インプラントの突出部位の刺激によると説明でき、この症状は疼痛と整合する部位にインプラントが残置されていることに裏付けられ、医師の診断もあることから、「局部に頑固な神経症状を残すもの」として後遺障害等級12級13号に該当すると判断しました。

コメント

本件は、自転車と自動車の事故を紹介しました。そして、例に出した事故態様だと、過失割合は20:80が基準となります。ここで、そもそも修正前の過失割合が、自動車の側に不利になっていることに疑問をもたれる方もいらっしゃると思います。
もっとも、これは自動車の方がスピードも出るし車体が大きく安定性があるので、自転車と自動車が衝突した場合、双方の損害に必然的に差が生じることからです。そこで、交通事故を避けるべき注意義務は、自動車の側に大きく課されることになります。

そして、修正を行って適正な過失割合を決めて賠償額を確定するのですが、過失割合は本件のように様々な事情を考慮して決められるものです。過失割合が5%も違えば、賠償額も大きく異なります。

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交通事故
下肢
12級
併合
素因減額

事故前の怪我の影響【後遺障害併合12級相当】

梨状筋症候群 事故前の怪我の影響(後遺障害併合12級相当)

事案の概要

X(原告:32歳女性)が、交差点を歩行横断中、左後方から右折してきたY(被告)が運転する普通乗用自動車に衝突されて転倒し、腰椎捻挫、頚椎不安定症、外傷後梨状筋症候群坐骨神経痛等の傷害を負ったため、約2年1ヶ月入通院して自賠責併合12級後遺障害認定を受け、Yに対して訴えを提起した。

<主な争点>
① 本件事故の具体的態様と過失相殺の可否
② Xの傷害、後遺障害の有無及び内容
③ 素因減額

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 480万5037円 628万5427円
入院雑費 2万5500円 2万5500円
入院看護費 10万2000円 0円
通院看護費 129万9000円 0円
通院交通費 84万8650円 84万8650円
文書料 53万7419円 50万5319円
装具購入費 30万5450円 0円
休業損害 769万8684円 384万9342円
後遺障害逸失利益 846万8701円 765万3645円
入通院慰謝料 380万0000円 260万0000円
後遺障害慰謝料 400万0000円 280万0000円
素因減額 ▲20%
過失相殺 ▲5%
既払金 ▲1609万7690円 ▲1760万円7812円
弁護士費用 158万0000円 10万0000円
合計 2663万5841円 116万3778円

判断のポイント

① 本件事故の具体的態様と過失相殺の可否

本件では、Yは、Xに20%の過失があると主張しているのに対して、Xは、道路横断前に左右の安全を確認し、かつ、左方の安全を確認した際には、左後方の一旦停止線を越えて進入してきている車両がないことを確認しており、必要十分な安全確認を行っているとして過失はないと主張していました。
この点につき裁判所は、Xにおいても、右折車が走行してくることは予測することができたのに、左方の状況を十分確認していたとは認められないから、本件事故の発生については、原告にも左方の状況を十分確認しなかった点で過失があるとし、本件では5%の過失相殺をするのが相当であると判示しました。
ここでは、原告が、現に衝突までYの運転する自動車の存在に気付いていないことが認定されてしまい、左方の安全確認が不十分であるとして5%の過失相殺がされてしまいました。

② Xの傷害、後遺障害の有無及び内容

Xは、上記の傷害結果を負い、左臀部から左下肢にかけての痛み等の症状が残存していることから、自賠責の認定通り後遺障害等級12級13号に該当すると主張しました。
これに対してYは、Xはもともと坐骨神経が梨状筋の中を通過するタイプDという坐骨神経痛が発症しやすい稀有な身体条件を備えていたこと、本件事故以前から坐骨神経痛を訴えていたことなどから、Xの罹患した梨状筋症候群は本件事故前からあったものであり、本件事故で発症したものではないとして、事故との因果関係は認められないと主張しました。

そもそも、梨状筋症候群とは、尾骨の上にある三角形の仙骨と大腿骨の付け根の大転子とをつなぐ梨状筋という筋肉(要はおしりの筋肉の1つです)が原因で生ずる鈍痛のことをいいます。これは、骨盤から足にかけて伸びている神経(坐骨神経といいます)が梨状筋部で圧迫を受けることによって現れる痛みです。
そして、坐骨神経が骨盤から足に至る経路は4タイプあります。その中にYが主張している坐骨神経が神経幹として梨状筋を貫通するタイプがあり、それは全体の約1%という割合と確かに稀有なタイプではあります。

しかし、裁判所は、
ⅰ本件事故によりXは、衝突地点から約1,2メートル離れた地点で臀部や肘をついて転倒したと認定でき、このような事故態様からXに加わった衝撃は相当程度のものであったと推認できること

ⅱ通院していた整骨院で、本件事故前の施術録には記載されていなかった「左臀部利状M」との記載が本件事故の施術録にあること

ⅲ本件事故前から訴えていた痛みの範囲が本件事故により広がり、さらに痺れも訴えるようになっていること

から、本件事故とXの梨状筋症候群発症との間には相当因果関係が認められるとしました。
そして、頚椎捻挫・頚椎不安定症に伴う頚部から肩甲部にかけての疼痛等及び腰痛も認めたうえ、自賠責同様併合12級の後遺障害等級を認めました。
ただ、Yの主張した坐骨神経のタイプには結局触れずに、事故態様や施術録の記録、本人の自覚症状から後遺障害を認定しています。このように、本人の自覚症状と客観的な記録が矛盾なく整合している場合には、後遺障害等級は認定されやすいことがわかります。

③ 素因減額

まず、「素因減額」とは、交通事故による損害の発生・拡大が、被害者自身の素因に原因がある場合に、賠償金を減額することをいいます。つまり、何らかの怪我や病気を抱えている人が交通事故に遭い、その怪我や病気がひどくなった場合には、全ての損害に対する補償を加害者に負担させることは公平性に欠けるということで、ひどくなった分の補償額部分が減額されることになります。
本件でも、Yから、本件事故の負荷の程度、発症時期、Xの身体的特徴を考えると、Xの症状に寄与した割合が圧倒的に大きいから、70%程度の減額を行うことが公平であると主張していました。
この点につき裁判所は、Xは本件事故前にも腰痛、左臀部痛、左坐骨神経痛という症状が出ており、左梨状筋を切除した後も後遺障害が残ったことに照らせば、Xの既往症(過去にかかった病気で現在は治癒しているものをいいます)が影響していると考えられると述べ、20%を同素因によるものとして減額するのが相当であると判示しています。

コメント

本件のように、交通事故においては、過失割合や素因減額など様々な要素が考慮されて賠償額を確定することは少なくありません。そして、訴訟においては、そのような要素を立証するために多くの事実を用いて裁判官を説得しなければなりません。訴訟でなくても、保険会社と過失割合などについて話し合うためには、ある程度の法的知識が必要になってきます。交通事故に遭い、保険会社から過失割合の話をされて、判断に困ってしまったら、是非当事務所の弁護士にご相談ください。

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交通事故
下肢
12級

CRPSについての裁判例【後遺障害12級13号】

膝関節の神経障害 CRPSについての裁判例(後遺障害12級13号)

事案の概要

幹線道路において、X(原告:39歳男性、調理師)が運転する普通自動車二輪車と、路外から公道上に出てきたY(被告)が運転する普通乗用自動車が出会い頭に衝突した事案。
Xはこれにより、全身打撲・頚椎捻挫・右膝関節血腫・腰椎々間板ヘルニア・右膝挫傷・皮下出血・左手関節挫傷・右膝関節拘縮を負ったため、Yに対して損害賠償請求をした。
右膝等の疼痛、左上肢等のしびれにつき、自賠責保険会社から後遺障害等級14級9号に該当すると判断されていた。

<主な争点>
①公的証明がない基礎収入額
②後遺障害の程度(右膝等の疼痛について)
③過失割合

<主張及び認定>

主張 認定
治療関係費 216万7411円 202万0301円
入院雑費 6万6000円 6万6000円
通院交通費 23万3370円 23万3370円
休業損害 812万5000円 219万9600円
入通院慰謝料 260万0000円 200万0000円
将来治療費 14万5660円 認められない
逸失利益 2746万7211円 1008万3034円
後遺障害慰謝料 830万0000円 420万0000円
過失相殺 ▲5%
損益相殺 ▲382万5124円
弁護士費用 160万0000円
合計 1753万7065円

判断のポイント

①公的証明がない基礎収入額
本件では、休業損害額を認定するにあたって、公的な証明書である源泉徴収票がありませんでした。また、休業損害証明書に記載されていたXの採用日が本件事故の3ヶ月前とされており、それ以前から働いていた旨のXの主張と異なるものであったことから、Y側から、Xの基礎収入の主張は信用できないと反論されていました。
しかし、裁判所は、Xが調理師法による調理師免許を取得していたこと、勤務先からXに対して毎月交付されていた給料支払明細書があることなどから、賃金構造基本統計調査の年齢別平均収入額も考慮したうえ、月額28万2000円の基礎収入を認めました。なお、休業損害証明書記載の採用日が本件事故の3ヶ月前であったことは、勤務先の意思に基づく作為であったというXの主張に合理性が認められ、勤務先の協力が得られなかったことにXの帰責性は認められないと判断されました。
このように、公的証明がない場合でも、さまざまな事情から基礎収入額を認定することは可能です。もっとも、この事案ではXが調理師免許を取得していた事情も考慮されており、事案によって認定の仕方は異なると思われます。基礎収入額が問題となる場合には、どのような仕事に就きどのくらいの収入を得ていたか、なるべく詳しい資料を入手することが大事になります。

② 後遺障害の程度(右膝等の疼痛について)
Xが訴えていた右膝等の疼痛について、裁判所においても、客観的かつ厳格な要件が設定されている自賠法施行令上の後遺障害であるCRPS(複合性局所疼痛症候群)は認められませんでした。
しかしながら、Xが本件事故直後から一貫して強く訴えていた症状であり、日本版CRPS判定指標は満たす旨の専門的知見があることなどを考慮すれば、「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当するとして、後遺障害等級12級13号を認めました。
そもそもCRPSとは、骨折などの外傷や神経損傷の後に疼痛が遷延する症候群のことを言います。その特徴とされる症状はきわめて多彩であるものの、他覚所見が認められにくいものであり、複数の症状全てに他覚所見を要求する自賠責保険の後遺障害等級認定をクリアするのは厳しいものとなっています。
ところが本件では、厚生労働省の研究班が作成した日本版CRPS判定指標を満たすという資料が出されており、裁判所はこれを基に後遺障害等級12級13号を認定しています。
自賠責保険の後遺障害等級認定が認められなくても、このように裁判で後遺障害が認められ慰謝料の請求が出来る場合もあります。本件では、Xが事故直後から強く症状を訴えていたという事情も考慮されており、最後まで自分の主張を貫く姿勢も大事であることが分かります。

③過失割合
本件では、Y側から、Xに30%の過失があるとの主張がされていました。
これに対し裁判所は、Yに過失があることを前提に、Xにも、交通状況に応じた速度と方法で運転しなければならない注意義務に反した過失があることは否定できないとして5%の過失相殺を認めました。
擦過痕等から、車両の徐行の有無を認定し、過失を認めたようです。

コメント

本件のように、Y側から休業損害額で反論があり、自賠責保険の等級認定が認められていないというような場合、何も準備がされていなければ、本来支払われるべき賠償額より相当低い額になるケースもあります。本件でも、示談交渉の時点での賠償額は、裁判所の認定額とは大きく異なっていたでしょう。
事案によって対応すべき点は異なり、1人で判断するのはとても困難です。また適切な対応をすることによって賠償額が大きく変わることもあります。
交通事故で困ったことがありましたら、1人で抱え込まず弁護士にご相談ください。

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交通事故
下肢
7級
併合

可動域障害についての裁判例【後遺障害7級相当】

可動域障害についての裁判例(後遺障害等級7級相当)

~足が動かない大変さ~(大阪地判平成20年10月14日)

事案の概要

X(67歳女性)が信号規制に従って交差点を自転車で進行中、Yが自動二輪車で赤信号無視してきたため、Xと衝突した。
Xは、この事故で右膝関節内粉砕骨折の傷害を負い、Yに対して損害賠償の請求をした。

<主な争点>
①症状固定時期(必要な治療はどこまでか)
②労働能力喪失率
③介護の必要性

<主張及び認定>

主張 認定
治療費 581万8355円 581万8355円
通院交通費 23万5630円 16万6030円
入院雑費 24万0500円 25万3500円
装具費用 18万8206円 18万8206円
休業損害 849万3541円 859万9636円
傷害慰謝料 500万0000円 415万0000円
後遺障害慰謝料 1051万0000円 1030万0000円
逸失利益 559万7654円 449万8202円
症状固定前の付添介護費用 423万0000円 423万0000円
将来の介護費用 246万5210円 246万5210円
弁護士費用 220万0000円 200万0000円

判断のポイント

① 症状固定時期(必要な治療はどこまでか)
本件でXは、複数の病院に通院し、後遺障害診断書も複数回作成されていました。
そして、問題となったのは、後遺障害診断書が作成された後に、人工関節置換手術を受けていることです。
一般に、後遺障害診断書には「症状固定日」が記載されます。
つまり、必要な治療がすべて終わって初めて後遺障害診断書の作成がされるのです。
したがって、後遺障害診断書の「症状固定日」以後の治療や手術は、原則として事故による賠償とはいえなくなります。
しかし、本件では、作成されていた後遺障害診断書上「右ひざにつき人工関節置換などの再手術を要する可能性がある」と記載されていました。
これが大きなポイントです。
つまり、ここで作成された後遺障害診断書は、あくまで「現在の小康状態が続けば症状固定」というに留まるのです。

このようなことは、往々にしてありえます。
特に、関節部の骨折等の場合、ボルト等で固定したうえで、一見すると癒合しているように見えても、血液循環不備等の理由で、壊死してしまう場合があります。
このような場合には、「壊死しなければ、これ以上の治療はとりあえず必要ない」「仮に悪化すれば再手術やより大掛かりな手術を要することになる」という形になります。
本件でも、再手術の可能性も踏まえた、とりあえずの症状固定であると明確に記されていたのが大きかったといえます。
また、再手術の結果、Xの関節可動域が大きくなった、つまり、少しは改善したという点も、手術が必要であったという評価に資しているといえるでしょう。

このように、もしかすると今後悪化するかもしれない、その場合には治療再開や手術が必要かもしれない、という場合には、きちんとその旨を証拠化しておくことが大切になります。

②労働能力喪失率
Xは、右膝関節の用廃(8級)と、右下肢短縮障害(13級)が認められ、併合7級相当と認められました。
労災の基準では、後遺障害7級は、労働能力喪失率は56%になります。
当然、Xは56%の労働能力喪失率で逸失利益を主張しました。

しかし、裁判所は結果としては、労働能力喪失率を45%として認定しました。
45%は、後遺障害8級の喪失率です。
裁判所は、確かに後遺障害は二つ認められるが、どちらも右脚の障害であるから、右膝関節の用廃に短縮傷害を併合した等級を喪失率の基準とするのは相当ではないと判断しました。
つまり、単純にいえば、右脚が短くなった不便さは、右脚が動かなくなった不便さの中に含まれる、という考え方です。

このあたりは、被害者側としては少々異論もあり得るところです。
本件では、Xの短縮障害は1センチメートル程度であり、これが小さいと評価されたのかもしれません。
確かに、膝が動かなくなってしまったことからすれば、1センチ脚が短くなったことの影響は少ないとも考えられます。

このように、後遺障害の等級評価と、労働能力喪失率は必ずしも一致しません。
個別具体的に、どのような障害がどのように労働に影響を及ぼすかという点を、きちんと主張立証していく必要があります。

③介護の必要性
Xは、日常生活の介護が必要だとして、介護費用を請求しました。
これに対して、被告は、この原告が利用している介護というのがいわゆる「家政婦がするような仕事内容」であり、Xの怪我についての介護ではないと主張し、これらは休業損害の中で評価されるべきと主張しました。

確かに、そもそも一般的には、後遺障害8級程度の等級では、付添介護費用が十全に認められないという判断が多いように思われます。
そのうえ、本件でXが請求しているのは、食事、掃除、犬の散歩といったような、あくまで日常生活のヘルプであって、傷病の手当てではありません。

しかし、この点につき裁判所は、一般論としては、Xの請求が難しいとしながらも、本件ではXは「婚姻歴がなく子もいないから、家族がいる被害者であれば当然に受けられる日常生活上の世話も、職業付添人(家政婦)に依頼せざるを得ない状況にある」と判断しました。
その上で、そのような出費は本件事故がなければしなくてもよかったものであるから、実際に出費した分は損害として認めると認定しました。
また、将来も同様の介護が必要であることは明らかとし、少なくともXが主張している金額は損害として認めることができるとしました。

この判断は、とても具体的な事情に配慮した細やかなものといえます。
ひとことで「介護」といっても、それを必要とする人によって、内容はさまざまです。
たとえば、遷延性意識障害(植物状態)であれば、用便の世話から、洗体、床ずれ防止や場合によってはバイタルチェックまでを要するかもしれません。
他方で、下半身不随等の場合、身の回りのことはある程度自分でできるが、移動を手伝ってもらう必要があり得ます。
本件では、右膝関節の用廃という、日常所作に難を抱えたXにとって、料理屋犬の散歩等は自分でするには困難な作業となりました。
これらは、もしもXに家族がいれば、代わりに行ってくれるでしょう。その場合には、大した問題は生じません。
しかし、Xは未婚で子供もいませんでした。
その場合、自分のことは自分でやるしかありません。
やってもらうとすれば、そこには当然対価が発生してしまいます。

裁判所は、このような具体的な事情を踏まえて、そのようなサービスを受けるもやむなし、と認定しました。

このことから分かるのは、Xがどのような生活を送っており、どのような点に不便を覚えているのか、それをどのように解消する手段があるのかといった点を、きちんと整理して主張することの大切さです。

コメント

本裁判例は、いずれの争点についても杓子定規に決定せずに、具体的な事情を汲み取った判断をしました。
もちろん、争点②のように、ある程度杓子定規に考えてもらったほうが、被害者側に有利だったものもあります。
そこで、適切な解決をするには、何をどこまで主張すべきなのか、どのような落しどころがあり得るのかを、きちんと見通すことが必要になります。
交通事故賠償は、ある程度定式化が進んでいますが、全てがそれで解決するわけではありません。
適切な解決をするために、ぜひあなたの詳細で具体的な事情を弁護士にご相談ください。

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